夏休みにて 4
夏休みのこと。
補習のため、学校へとやって来た涼香。
太陽はまだ昇りきっていない時刻なのだが、蝉が鳴いていないほどの暑さだ。
「暑い……」
涼音を置いてきてよかった。そんなことを考えた涼香は、昇降口で滴り落ちる汗を拭いながら、脱いだ靴を拾い上げる。
重たい足取りで階段を上って三階まで辿り着く。冷房が効いている教室に着けばいくらかマシになるだろう。
「タオルを持って来るべきだったわ」
後悔しながら、ずるずると教室へとやって来た涼香は教室の中に入るが、教室にはまだ誰も来ていなかった。
補習の時間にはまだ時間があるため、涼香は椅子に座り、リュックから下敷きを取り出してパタパタと扇ぎだす。
補修が始まるまでにどれだけ涼めるかが大切だ。
涼香はリュックから筆記用具を準備する。補習はプリントを配ってくれるため、準備するものは殆ど無い。筆記用具すら学校に置いている生徒は、手ぶらで学校に来ていたりする。
しかしそんな生徒とは一線を画す涼香はふっと笑う。
その時、教室のドアが開き一人の生徒が入って来た。
「わっ、水原だ」
「あら、理子ではないの。今日も来たのね」
「そっちこそ」
三田理子は涼香と同じクラスの、黒く長い髪の毛を一つの三つ編みにした女子生徒だ。
理子は涼香の斜め前の自席に着くと、机の中から筆記用具を取り出す。
「手ぶらで来るなんて、そんなだから補習に呼ばれるのよ」
「えぇ……」
補習に来ている時点でどっちもどっちなのだが、涼香もそれを分かっているはずだと思いたい理子である。
「ねえ理子、聞きなさい」
「嫌」
理子は涼香の方を見ずに素っ気なく返す。
「今日も涼音が可愛かったのよ」
「嫌だって言ってるよね?」
「私を起こしている時の困った表情もまた可愛いのよね」
「わたしの声聞こえてる?」
遂に涼香の方を向いた理子。
しかし向いた先の涼香は、スマホの画面が理子に見えるように構えていた。
「これは眠っている涼音の写真よ‼」
「ほんとなんなの……」
うなだれた理子が吐き出した言葉に涼香は答える。
「涼音の可愛さを世界に広めたいだけよ」
鼻の下を指で擦る涼香であった。




