檜山家にて 3
夏休みのこと。
「はい、喉が渇いたでしょう?」
そう言って涼香は、湯気の立つマグカップを涼音に差し出す。
「なんであっつあつのココアなんですか? 真夏ですよ?」
中身を確認した涼音が、無表情でツッコミを入れる。
「真冬にアイスを食べるのはいいのに、真夏にホットココアはダメだと言いたいのかしら? 真夏にホットココアを飲む人に失礼ではないの?」
涼香の反論に、確かにそうだよなー、と納得する涼音。
「なんか……すいません」
真夏でもあっつあつのホットココアを飲む人に謝りながら、涼音はゆっくりとホットココアに口を近づけ――。
「あちゅいっ」
その瞬間切られるシャッター。涙目の涼音はスマホを構える涼香を睨みつける。
「続けなさい」
しかし涼香はどこ吹く風。
涼音は、無理やり飲ませてやろうか、と考えるが、そんなことはしない。
氷を入れようにも、マグカップになみなみと注がれてるココアに氷を入れると溢れてしまう。
ふーふーして冷ましてもいいが、それをやると涼香の写真の餌食になってしまうため避けたかった。となれば、することはただ一つ。
涼音は席を立つと、カーペットの上にぐでーんと寝転がり、近くにあるクッションを抱いて目を瞑る。あっつあつのココアを放置することにした。
ちらりと涼香を見ると、恐ろしいものを見たような表情を浮かべていた。
「涼音……⁉」
まさかそういう手を使うとは。ふーふーするか、ふーふーしてあげるか、その二択しか頭の中になかった涼香は動揺を隠せなかった。
「ほ、ほら! 私がふーふーしてあげるわ」
そう言ってマグカップをふーふーする涼音。
「もう冷めたわよ――あっつい!」
確かめるため、マグカップに口をつけた涼香があまりの熱さに叫ぶ。
「えぇ……」
すると涙目の涼香も席を立ち、涼音の隣りにやって来てぐでーんと伸びる。
そんな涼香にクッションを渡してあげる涼音であった。




