夢の中にて 6
夢の中にて。
「ねーえ、す・ず・ね」
「うひぇあ‼」
突如耳を襲った空気の震えに、涼音はキュウリを見た猫のように飛び跳ねる。
勢い余って部屋の天井をぶち抜き、空高く飛んでいく。そして浮遊感を感じる間もなく、着地したのは某世界最古の木造建築物の五重塔の頂上であった。
「なんで⁉」
相輪にコアラの如くしがみついた涼音。
これは夢の中なのだが、これを夢だとは思っていない涼音は見事にパニック。
「先輩ぃぃっ⁉ 助けてぇっ!」
涼音の声に釣られてか、三羽のカラスが涼音の周りを旋回している。
そんな中――。
「涼音、待たせたわね!」
純白の羽を生やした涼香が、天高くから降りてくる。
羽を動かす度、フローラルブーケの香りが広がる。
「あ、いい匂い」
いつの間にか辺りはどこまでも続く花畑になっており、涼音と涼香の服装も真っ白なワンピースに変わっていた。どことなく柔軟剤のコマーシャルみたいだった。
「あはははっ、こっちですよーせんぱーい」
「ふふっ、待ちなさーい」
気がつくと、涼音は涼香と花畑の中で追いかけっこしていた。そして案の定、ビターンっと転ぶ涼香。
「えぇ……」
そして涼香が転んだ場所から温泉が湧き、二人は湧き出た温泉に流された。
「――っ⁉」
跳ね起きた涼音は息を整る。
夢の内容は憶えていないが、跳ね起きてしまうほどの夢を見たのだ。とりあえず冷房が起動しているのか、汗をかいていないかを確認する。
いつもと変わらない平和な空間。
安心した涼音は喉の渇きを潤そうと、涼香を起こさないようにそっと部屋を出るのだった。




