涼音の部屋にて 12
「将棋でもやりましょうか」
「いきなりなんですか……」
夏休みのこと。涼音の部屋で、涼香は思いついたことを言った。
「うちに将棋なんてありません」
そう言い切る涼音に対して、まだまだ甘ちゃんね、とでも言いたげな涼香。
「あるわよ、ほら」
そう言って出したのは、よく百均などで売ってある小さな将棋セットだった。
それを見た涼音は苦い顔をする。
「うえ、どこでそれを?」
「リビングのテレビの下らへんよ」
ふわっとした説明だったが、涼音にはバッチリと伝わった。
「……よく見つけましたね」
「凄くくしゃみが出たわ」
「あっ、お疲れ様です」
「というわけで将棋をやりましょう!」
ずいっと将棋セットを押し付けてくる涼香だが、涼音はかなり渋っていた。
「えー」
「えー、ではないわよ!」
「だってあたし将棋のルールいまいち分かりませんもん」
王将を取れば勝ちだということは知っているが、どの駒がどう動くのか、それが分からない涼音である。
「そんなもの調べればいいではないの」
「まあ……確かに」
確かに涼香の言う通りだ。涼音は口を尖らせながら将棋セットを受け取るのだった。




