涼音の部屋にて 10
夏休みのこと。
「というわけで、今日は涼音の部屋にやって来たわ!」
檜山家にやって来た涼香が、涼音の部屋に入るや否や、決め顔を壁に向ける。
ベッドに寝転んで、スマホで動画を見ていた涼音は、涼香に目を向けて一言。
「誰に言ってるんですか……」
涼音の部屋の構造や家具配置などは、涼香の部屋とあまり変わらない。
強いて違いを言うのなら、涼音の部屋にはクローゼットがあることぐらいだ。
「一緒に寝るのは久しぶりね!」
涼音のベッドに潜り込んできた涼香が言う。
「いや夏休み入ってから毎日一緒に寝てますよね?」
くっついてくる涼香を押しのけながら涼音は声を上げる。
「涼音!」
「あ、はい」
急に真顔になって大きな声を出した涼香。
思わず涼香を押しのけることを止め、素直に話を聞く態勢になる涼音である。
「今日も可愛いわね!」
そう言って涼音の顔を両手でむぎゅむぎゅする涼香。
涼音は顔をぶるぶる。身体を起こして涼香から距離を取る。
「急にどうしたんですか⁉ と言いたいところだけど割と平常運転!」
中途半端な表情で騒がしい涼音に涼香は詰め寄る。
後ろの壁に背中をくっつけた涼音は、目の前にある涼香の顔をみる。
「そんなに見つめないでよ。照れるわ」
びっくりするぐらい無表情の涼香に頭突きをかましたくなる涼音だったが、涼香の顔を見つめたまま固まってしまう。
真夏だというのに、日焼けを全くしていない白い肌。綺麗な二重瞼に長いまつ毛、思わず息を呑んでしまう美しい景色と言われるものがそこにある。
涼音は全く息を吞まないが、確か聞いた話、高校入学したばかりの涼香の人気は凄まじかったらしい。予想はしていたが、入学式の日は大層目立ったとのこと。少し前、菜々美が遠い目をしながらその時のことを語ってくれた。
ため息をついた涼音は涼香の顔面を手で押して離す。
「離れてくださーい」
押されて離された涼香が口を尖らせる。
「意地悪ね」
「これがあたしの平常運転なんで」
意地悪く微笑む涼音であった。




