水原家にて 2
蝉すら鳴かない夏空の下、涼香が家に帰ってきたのは、十三時頃だった。
「ただ……いま……」
ガチャンとドアが閉まると同時に、リビングから涼音がひょっこり顔を出した。
「うわ、凄い汗」
「ごは……ん……」
辛うじて両足で立っている涼香であったが、いつ崩れ落ちてもおかしくない状況だった。
リビングから出てきた涼音は、涼香のリュックを受け取ると顔を顰める。
「お風呂にします? ご飯にします? それとも――」
「シャワーを浴びたいわ」
「ですよね」
そう言うと涼香はズルズルと洗面所まで向かう。
涼香の通った後には汗が線を引き、外の暑さを物語っていた。涼香を出迎えに玄関へ来ただけでも、じんわり汗が滲んでくる。
涼音はこれ以上汗をかかない内に涼香の部屋に向かい、着替えを用意してくる。
下着とジャージを持った涼音は、それから急いでリビングに向かって冷蔵庫から、水の入ったペットボトルを取り出した後洗面所へと向かう。
洗面所の中に入ると、脱いだブラウスを指先で摘みながら洗濯機の中に入れていた涼香と目が合った。
「あら、一緒に入る?」
「入りません」
涼音は涼香にペットボトルを手渡し、適当に空いている棚に着替えを置くと、洗面所から出て行くのだった。




