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水原家の玄関にて
夏休みこと。
「先輩……本当に、行くんですね……?」
涼香の家にやって来ていた涼音は、外へ出ていこうとする涼香の後ろ姿に言葉を投げかけていた。
プッシュプルハンドルに手を伸ばした涼香は、驚いて後ろを振り返る。
そしてすぐに平静を装い言葉を返す。
「ええ、呼び出されたのなら仕方がないわよ。安心しなさい、私は戻ってくるわ」
そう言って出ていこうとする涼香であったが、涼音は涼香の手を掴む。
「でも先輩!」
そういう涼音の表情は、こんな暑い中出ていくなんて正気ですか? という表情だった。
現在時刻は八時、十分に暑い時間帯だ。
「涼音。お昼ご飯を用意して待っていてくれないかしら?」
そんな涼音の表情など気にしていない涼香は、未来に思いを馳せる。
「あ、はい」
夏は玄関ですら暑い。
汗をかいてきた涼音は、早く冷房の効いている部屋に行きたかった。
「行ってくるわ」
そして涼香は夏休み真っ只中の学校へ、補習を受けに行くのだった。




