終業式の日の通学路にて
終業式の日の朝、涼音が涼香の家のインターホンを押すと――。
「明日から夏休みよ!」
という言葉と同時に、涼香がドアを開いた。
「そうですね」
蝉の声よりも大きかった涼香の声、割と近所迷惑のような気がした。
涼音は暑さと涼香のハイテンションに顔を顰めると、涼香を放って駅への道を歩き出す。
「待ちなさいよ」
涼香が慌てて涼音の隣に並びかける。
「ほらほら、明日から夏休みなのよ。もっと喜びなさい」
涼香が涼音のほっぺたをツンツンと突っつく。
「ああもう暑苦しい!」
涼音は水を浴びた犬のように、頭を激しくブルブルする。
「喜びますからさっさと学校に向かいましょうよ!」
「今日はお昼から私の部屋で映画を見て過ごしましょうか」
終業式は午前で終わるため、実質夏休みは今日の午後からなのだ。
「……怖いのは嫌ですよ」
「ふふっ」
過ぎ去った梅雨のようにジメっとした目を向ける涼音であったが、涼香はそれを微笑んで受け流す。
「えぇ……」
「夏休みよ!」
そしていきなり、涼香は涼音に覆いかぶさるように抱きしめる。
「あああああもうっ!」
朝の住宅街に、涼音の叫びが響くのであった。




