家庭科室にて 10
ある日の放課後。
「先輩って寝癖ついてても、気がつくと元に戻るんですよねー」
「羨ましいなあ……」
「そうでしょう? 羨ましいでしょう? 羨ましいって言いなさい!」
「先輩、もう言ってますって」
涼香と涼音とここねの三人は、仲良く家庭科室でお喋りをしていた。
ちなみに菜々美はアルバイトで不在である。
話題は涼香の寝癖事情。なぜこの話題になったのかは不明だった。
「ねえ、涼香ちゃんの髪の毛触ってもいい?」
「いいわよ」
ここねは身を乗り出して、涼香の髪の毛を触ってみる。
涼音も隣で涼香の髪の毛を触っている。
涼香の髪の毛は、枝毛など絶対無いと言い切れるし、絡まることなく、滑らかに流れる艶やかな黒髪だった。
「やっぱり涼香ちゃんの髪の毛って綺麗……」
ここねが感嘆の息を漏らしながら言う。
「ほんと……同じシャンプー使ってるんですけどね」
涼音は涼香の髪の毛をなんとなく三つ編みにしていた。
「涼音は髪の毛を染めているからではないの?」
「あー、まあそれもありますね」
涼音とそんなやり取りをしながら、涼香は机の上に身を乗り出しているここねを引っ張る。
家庭科室のテーブルは大きいため、小柄なここねは、テーブルに乗り上げると足が浮いてしまう。
「きゃー」
ここねはじたばたと足を動かしている。
「さて、どう調理しようかしら」
「なにやってるんですか」
「涼音、早く写真を撮って菜々美に送りなさい!」
「えぇ……」
こうしていつも通りの緩慢な放課後が過ぎていく。




