テスト後にて
期末テストの全科目が終了。あと少し学校に来れば夏休みが待っている。
学校全体がその開放感に浮足立った空気の中――。
「完全に燃え尽きてしまったわ……」
椅子に座る涼香は、真っ白な灰になっていた。
「お疲れ様です。あとは夏休みの補習だけですね」
「あまり意地悪を言うと、涼音も補習に呼ばれるわよ。それにまだ補習があると決まったわけではないわ」
涼香の前の席に座る涼音は、涼香の方へ身体を向けて口を開く。
「お互い補習だったら、一緒に行きましょうね」
「あら、今日はやけに素直ね」
「もうすぐで夏休みだから浮かれているんですかねー」
肩をすくめる涼音を、成長する子供の背中を見送る親のような顔をした涼香が見る。
「なんですか」
「なにもないわよ。今年こそは、思い出を作らないといけないわね」
「写真ですか? まあ、別にいいですけど」
「そういうことではないわよ」
ふふっと笑う涼香。しかし真っ白な灰のままである。
「灰のくせに思わせぶりなこと言わないでくださいよ」
涼香がなにを言いたいのか、なんとなく解る涼音だったが、それは涼音自身が必要だと思っていないことだった。
だから涼音はハッキリ断言する。
「あたしは先輩以外の人との思い出なんていりません!」
そうやって言い切る涼音の頭に、涼香は優しく手を伸ばす。
「ええ、そうね。涼音の言いたいことは解るわよ。私だって、これからもずっと涼音と一緒にいたいと思っているから……」
「じゃあ別にいいんじゃないんですか? あたしは先輩が卒業して一人になっても平気ですし」
「でもそういうことではないのよ。涼音も解っているはずでしょう?」
頭を優しく撫でて、落ち着かせるように言葉を紡ぐ。
「解りませんよ。解りたくもないです! ああもう! 真っ白な灰のくせに!」
涼音が頭に置かれた涼香の手を払って立ち上がる。
「先輩の意地悪!」
そう言ってリュックを背負った涼音は、教室から飛び出した。
「涼音! 車と自転車には気をつけなさいよ!」
涼香は追いかけようと腰を浮かしたが、少しの間だけ涼音を一人にした方がいいと思い、浮かした腰を下ろした。
「全く……。もう……」
椅子に沈みこんでため息をつく涼香。
そんな一人沈む真っ白な灰に状態の涼香がいる教室に、一人の女子生徒が顔を覗かせた。
「檜山が走ってったけど……なに? 喧嘩したの?」
「あなたは! 綾瀬彩――⁉」
顔を覗かせたのは、セミロングの、ウェーブがかったベージュ色の髪の生徒――綾瀬彩だった。




