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百合の一幕 涼香と涼音の緩い日常  作者: 坂餅


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133/928

宝探しにて 2

(灯台下暗しとはこのことね)


 宝探しの宝としてこの競技に参加した涼香(りょうか)は、昇降口から校舎内に入って一番最初にある部屋の保健室にいた。正確には保健室のベッドで布団を被っていた。


 既に復活した菜々美(ななみ)はもうおらず、今保健室にいるのは涼香一人だけだった。


 この宝探し、校舎内全てが競技場になっている。もちろん屋上など、普段から立ち入り禁止の場所には立ち入り禁止のテープが張られている。


 しかしこの保健室は、体育祭中に体調を崩したり、怪我をした生徒たちが来る場所のため、立ち入り禁止ではないが立ち入り禁止だと思われている。


 実際菜々美が保健室のお世話になっていたこともあり、立ち入り禁止という認識に更に拍車をかけている。だからこそ涼香はこの場所を選んだ。


 すると、競技が始まったのだろう保健室の前を大量の生徒達が通り過ぎていく。


(行ったわよね……?)


 足音が遠ざかるのを確認すると、涼香は布団からそーっと頭を出す。


「見ーつけた」


 すぐに布団を被りなおした。


「ごほっごほっ。無理しすぎたみたいね、今凄くしんどいわ」


「なに言ってるんですか。ほら、行きますよ」


 ドアを閉め、大股でベッドまでやって来た涼音(すずね)が布団を引っぺがす。


「いーやーよー!」


 嫌がる涼香の腕を掴んで強引に立ち上がらせる。


「なんで抵抗するんですか、先輩にメリット無いでしょう?」


「だって悔しいのよ!」


 力いっぱい引っ張るが涼香はびくともしない。


「分かりやすい場所に隠れる先輩が悪いんですよ」


「涼音の意地悪!」


「意地悪でいいから早く来てくださいー!」


 それでも動こうとしないため、やがて涼音は引っ張るのを止める。


 そして息を切らした二人は睨み合う。


「他の宝を探しに行った方がいいのではないかしら?」


「見るからに高得点な宝があるのに、それを見逃せと?」


 両者互いに譲る気は無いらしい。こうなればやることは一つ。


「「じゃんけんぽん!」」


 涼音はパーで、涼香はグー。涼音の勝ちだった。


「あたしの勝ちですね」


 勝負に勝った涼音は得意げに微笑みながら涼香の手を取る。


「三回勝負よ!」


「えぇ……」


「三回勝負!」


 なぜか駄々っ子になった涼香、仕方なく涼音は付き合う。


 やがて――。


「どうして……勝てないの……⁉」


 十回先取の勝負になったが、涼音が快勝した。


「観念してください」


「意地悪……」


 制限時間はまだあるが、いつ他の生徒が保健室にやって来るか分からない。できるだけ早く校舎から出たかった。


 いじける涼香の手を引きながら、昇降口で靴を履き替える。


 そしてグラウンドへ出ようとした瞬間気づいてしまう。


 これはかなり目立ってしまうことに。


 二年生はほとんどが校舎内だろう。しかし一年生は全員グラウンドで待機している。


「どうしたの?」


 立ち止まった涼音に訝し気な目を向ける涼香。


「いえ……はあ」


 もういいや、と。今更そんなことを気にしても、今日はもう手遅れだ。そんな意味を込めたため息をついて、涼音は涼香を引っ張ってグラウンドへ戻るのだった。

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