体育祭にて
これからある競技が始まる。
――借り物競争。
使うのはトラックの内側、横幅約五十メートルの範囲。端からスタートし、真ん中に置かれている紙に書かれたものを持ってゴールするというシンプルなルール。
ちなみにこの借り物競争が、ここ三年の一番人気の競技だったりする。
全学年各五人ずつが出場できるこの競技、涼音も出場権を勝ち取った一人として、入場門に集まっている。
一学年七クラス、総出場者数百五人。一度に全出場者は中に入れないため、学年ごとに分けられている。そのため、今トラック内にいるのは一年生三十五名のみ。
ルール説明のアナウンスが終わり、いよいよ競技が始まる。
号砲の音が鳴り響き、第一走者の七人が真ん中へ向かって一斉に駆け出す。
地面に置かれている紙を拾い上げて書かれているものを確認した五人全員が向かう先は涼香のいる場所、入場門だった。
(うわっ、やっぱり来た)
この借り物競争は半ば水原涼香争奪戦になっている節がある。
涼香はどの借り物の代わりにもなる、というわけではないが、高校生の体育祭だ。お題は『好きな人』や『彼女』などその類のものばかり、故にほとんどの出場者は涼香の元へとやって来る。
「今年も私は大人気ね」
なんてことを言いながら、悠然と歩み出す。周りから歓声を浴びながら、二年生の待機場所を抜けようと、涼香が涼音の真横を通る。
「待っているわね」
その言葉は歓声にすぐさまかき消され、誰にも届かないはずだった。
「……当たり前ですよ」
既に一年生に引っ張られた涼香の背を見ながら、涼音はそう呟くのだった。




