異世界屋台の旅4 <あの場所へ帰るワケ>
数日後、俺は二人を連れ立って噂の出どころであった王国の港町へと到着した。町にはチラホラ間違いの多い日本語の看板のほか、どうしてそうなったのか万国旗が飾られている。だが、とにかくここが話で聞いた鉄の船が来た港町である。
「俺の場合は、あとはここから船に乗るだけだな」
「そうか・・・ハンバーガーが食えなくなるのは残念だな」
短い旅ではあったが、レイチェルとレミンとの旅もここまでである。流石にこの二人も一緒に船に乗って日本まで一緒に来たりまではしない。あとは俺が帰る手段を見つけるまでの関係だ。そのため、終点を目前にして二人はどうするのかと思い俺はそう言ったのだが、どういうわけかレイチェルの返事はこれであった。
「いっそのこと、これ要るか?」
「んー・・・、要らん」
それから俺は最後の処分に困っている屋台をレイチェルに振るが、断られる。そもそもハンバーガーも作ろうと思えば屋台でなくて普通の台所でも作れるものである。
そして、そうこうしているうちに俺たちはある建物の前へと到着した。白地に真っ赤な円の描かれた旗が掲げられ、総領事館と漢字で書かれた看板まで掲げられている。この町のどこかに在外公館があるとはこの町に来るまでに聞いてはいたが、図らずもその前を通りかかることになったようである。
「どうやらここが目的地みたいだね」
「そうだな」
足を止めた俺にそう声をかけてきたレミンに俺はそう答えるが、それに続いてレイチェルのなぜかレイチェルの詰問が始まる。
「帰るのか?」
「そのためにここまで来たからな」
「国に帰れば待っている女でもいるのか?」
「いいや、そういうわけでもない」
強いて言えば自分が生きるべき時代で普通に暮らしたいだけかもしれない。
「じゃあなんで帰るんだ?国にこだわらずその場所で生きていくというのではだめなのか?」
「んー、生まれ育った国だからというより帰らない理由がないから帰るだけ・・・だな」
レイチェルの言いたいことも分からないわけではない。そこで十二分に暮らしていけるのであれば帰る必要もどこか別の場所に行く必要もないのかもしれない。
「帰らない理由がないだけ・・・か」
「どうかしたか?」
「私には逆に帰る理由がないからな」
そもそもレイチェルもあの開拓地にいた以上、なんらかに理由があってのことである。それを詮索する気はないが、俺とは真逆であるが真逆であるからこそある疑問がわく。
「そもそも家に帰るのに理由がいるのか?」
「えっ?」
「何がどうなったら帰る理由になるんだ?」
「・・・」
俺にとってはごくごく単純な疑問である、逆に何が帰る理由になるのか。だが、レイチェルはその答えを出すことはできないようである。最後にかわいそうなことを聞いてしまったものだと思うが、答えを出すのはレイチェル自身以外にはない。
そして俺はここまで来てあまり気持ちのよくない別れとなってしまったが、自分自身が帰るために二人に最後の別れを告げて総領事館の扉を開けたのである。
・・・・・
総領事館の中はひどく閑散としていた。入り口から入ると正面には長いカウンターが横一直線に続いているが、そこに設けられた窓口にいる客は誰一人としていない。
これは後で知ったことだが、この総領事館は主にこれから行われる日本との貿易に備えて設置された事務所という意味合いが強いもので、あくまで情報収集の拠点でしかなかったとのことである。
とりあえず俺は目についた窓口に行くと、なんなんだこいつはという目をしながら男性職員が俺の前に来る。
「どうしましたか?」
正直どうかしましたかといわれてもである。だが、どうかしましたかといわれると・・・。
「どうにかしてほしい」
と答え、この数年で汚く傷だらけになった運転免許証を差し出すと男性職員の顔色が変わる。
「マジですか・・・」
そしてそうつぶやくと振り返って部屋の奥にいる上司と思われる年配の男性職員に叫ぶように言う。
「ふ、二人目です。二人目!」
こうして俺は何が二人目なのかわからないまま保護されることとなったのである。
ちなみに、この後しばらくしてレイチェルが父親のもとに戻り、貴族の一員として日本を訪問することになるのはまた別の話である。