異世界屋台の旅3 <噂の二ホン>
俺は日本への道中や通りがかる町でもハンバーガーを売り歩く。たとえ大量の旅の食糧を買い込めたとしても、その食料が長持ちしないのでこうして売っては金に換え、新しい食料を買うということをしているのだ。
「おい、一体それは何だ?」
「肉をパンで挟んだハンバーガーっていうやつだ」
そしてここまで売る道、売る町で俺は幾度となく同じ質問を受けて同じ答えを返す。焼いたばかりの肉を手軽に食べられるというのはウケがいいのだが、珍しい材料ではない分この料理を肉と受け取っていいのか、パンと受け取っていいのかといった反応を見せてくる。
だが、食べてしまえばあとの反応は皆同じで買う奴によっては食いながら二個目を注文したり、仲間のためといくつか買っていったりする奴もいる。しかし、そんな反応卯もここにきて、この町ではいつもと様子が違った。
「ハンバーガー!?聞いたことあるぞ。二ホンって国にある食い物だ」
その言葉に俺の屋台の周りには人が群がる。どうやら俺が思っている以上に日本に関する情報が広まっているようであり、俺自身も着実に日本へと近づいているようである。
・・・・・
ハンバーガーを売りさばき、屋台の周りの人だかりがなくなったあと、俺の目の前には見覚えのある二人組が現れた。
「久しぶりだな」
「どうも」
同じ装備をした二人の女傭兵、今思えば開拓地でのこの二人との関わりも懐かしい。そして、先ほどの人だかりから離れたところに二人がいるのに気が付いていた俺は二人にあるものを放り投げる。
「ほれ、あまりだ、持ってけ」
「あ、ああ、すまない」
あまりと言いつつ二人のために残していたハンバーガーを二人が受け取ると俺はその場で二人との立ち話を始める。
「それにしても、どうしてこんなところにいるんだ?」
「・・・」
二人どちらかが俺の質問に答えてくれるというわけでもなく沈黙がしばし続くが、しばらくすると彼女らのうち犬の獣人である方が答えてくれる。
「ちょっと気になっただけかなー」
「ん?」
俺にとってその言葉だけでは意味が分からないので先を促すが、そこへもう片方が割り込んでくる。
「ちょっとハンバーガーの味が気になってな、ちょっと追いかけてきただけだ」
俺も致命的までに鈍感ではない。なのでまさかな・・・とは思うが、そのまさかだったとしても俺は日本へ帰れば一生国の外に出ることなく生きていくぐらいの心持ちである。だからここは完全にとぼけ、言葉通りに受け取ることにした。
「そうか」
その後は他愛ない話が続くが、この時になって初めて俺は人間の方がレイチェル、犬の獣人の方がレミンという名前であることを知った。今まで店主と客という関係ではあったが、それ以上でもそれ以下でもない関係性だったのである。
どうやらレイチェルの旅にレミンが仕方なくついてきたということらしいが、そのような間柄の仲間がいるだけ俺よりはマシな部類であろう。
「それにしても、あの辺鄙な開拓地を出るときに国に帰るとか言っていたそうだが、一体どこまで帰るんだ?名前からしてこの辺りの出身ではないだろう」
向こうの生い立ちを聞くと、次はこちらが話す番となった。だが、いくら日本がこっちの世界に来ているとはいえ異世界だなんて突拍子もない話を流石にできるわけもない。
「日本まで少しな」
「あの、色々と噂のある国か、あの噂は本当なのか」
「どんな噂かは知らないが、そんな噂が流れるほど遠い場所にある国だな」
遠い場所にある国、その言葉に少し沈黙した後、レイチェルはさらに話を掘り下げてくる。
「やっぱり、お前は国に帰りたいものなのか?」
「まあな、帰れないと思っていたけど、帰れると分かったからかな」
やろうと思えばあそこで暮らしていくことも出来なくはなかっただろう。だが俺があの開拓地にいた理由、それは帰る場所がなかったからである。帰る場所ができた今、あそこにいる理由がなかったのである