異世界屋台の旅1 <異世界の屋台>
この地には捨てた者と捨てられた者の二種類がいる。そして俺はどちらかと言えば捨てられた側である。
帝国のとある辺境にある町、ここは到底仕事に欠くことがない開拓地である。毎日道路や建物、開拓地そのものを囲う城壁が造られ、開拓地の外では森林の伐採、魔獣の討伐が行なわれ、さらに外へ行けばこの開拓地とほかの町を行き来する商隊の護衛といったように仕事ない場所は存在しない場所なのだ。
だが、俺には石や丸太を持って駆け回るような体力はないし、冒険者になって護衛として盗賊や魔獣と戦うなんて論外である。そんなわけで俺がこの町でしていることと言えば・・・ハンバーガーもどきを屋台で売るというしがない物売りである。
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夕方になると町の働き手たちは一斉に仕事を終え、町中で鳴っていた金槌の音やノコギリの音は男たちの酒場のどんちゃん騒ぎへと変化する。
昼間であれば仕事の片手間や短い休憩時間の食事を簡単に済ませたい彼らが俺の屋台にもやってくるが、夜は酒場で仕事仲間と酒を飲むのが日課であり、俺の屋台で晩飯を済まそうというのはまずいない。
「いつも通りに頼む」
だが、どこにでも例外はいるものである。多くの労働者や冒険者が酒場で酒をあおる中、いつもこの時間に訪れる二人組がやってきた。それは人間と犬の獣人の二人組の女傭兵たちであり、二人とも皮鎧に長剣というこの辺ならばどこにでもいる装備をしているが、その剣技はそこらにいる男の傭兵でも敵わないほどと聞いている。
「あいよ、少し待っとけ」
そして俺はそんな二人にそう返事をして仕事に取り掛かる。屋台の鉄板でステーキのような肉片を焼き始め、肉を焼きつつパンを上下に切り分ける。それから俺は肉が焼きあがるとその肉の上にチーズとケチャップを重ねてパンで挟み、そのハンバーガーもどき二つを彼女らに差し出す。
「ほれ」
「ああ」
俺たち三人は店主と客、という関係にしては必要最低限しか会話を交わさないが、これこそが俺がハンバーガーもどきの屋台をやっている理由である。
人付き合いが上手いわけでもない、料理が上手いわけでもない俺にとって現代日本と違って愛想もいらないし、売り物だって肉とパンさえあればどうにでもなるのだ。
「それじゃ今日はこれで店じまいだ」
「そうか」
金を受け取った俺は二人の女傭兵を本日最後の客として宿へと帰る。今日もこうして毎日同じように繰り返される一日が終わったのである。
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翌日、俺は朝にパンと肉の買い出しといった材料の調達をして、昼には町の働き手たちを相手にして商売を始める。
「一個もらうぞ」
「俺は二個だ」
今更ながら、ひき肉の塊ではなくステーキを挟んだものをハンバーガーと言っていいのかわからないが、これのいいところは作り置きができるところである。昼食の時間までにある程度数を作ってしまえばあとは売るのに集中するだけでいい。いま俺がやるのは金とハンバーガーの交換だけである。
「そういえば聞いたかあの話?」
「あ?ああ、あれか。どうせどっかの馬鹿がありもしないこと言いふらしているだけだろう」
「いったい何の話だ?」
そしてその交換相手たちは俺の屋台の前に集まるといつも通りに馬鹿話に花を咲かせる。昨日の夜に酒の飲み比べで勝っただの、酒場の女給仕の尻を触ったら蹴っ飛ばされたただのといった話である。
だが、この日聞くこととなったその馬鹿話は、俺にとって思い当たる節が多すぎる聞き捨てならない話だった。