港町の男3 <異世界情勢>
「欧州情勢は複雑怪奇」なんて言葉があるが、異世界ともなればまさにその情勢は複雑怪奇である。
外交官をやり過ごして気長に構えていた俺であったのだが、そんな俺のもとに来た噂は再び俺を焦らせることとなった。それはこの王国が隣国と金鉱をめぐって戦争をするのではないかという不穏な噂だ。
少なくとも日本がそんな戦争に加わることはないと俺には断言できるが、同時に戦争中の国と日本が国交を結ぶのかという問題があるのだ。もしそうなれば俺は日本に帰るチャンスを失うだけでなく、戦争当事国に取り残されることになる。
こうなれば目の前にある確かなもの、沖の護衛艦に俺の望みを託すしかないが、この数日で護衛艦と接触するのはさらに難しい状況となってしまった。
何人もの商人が船で護衛艦に横付けして商品の売買を試みたり、漁民たちが舟で近づいては物々交換をしようとしたりした結果、護衛艦の周囲にはそういった連中を近づけないために二、三人の騎士が乗った舟が警備のために留まるようになってしまったのだ。
おまけに日本に密航しようと護衛艦まで泳いでいったのがその騎士たちに捕らえられるというダメ押しの一発もあり、今では注目を集めずに護衛艦へ近づくことすら難しい。
無線もなければ手旗信号ができるわけでもない。たとえ海に飛び込んで騎士に見つかる前に護衛艦に泳いでいったとしても護衛艦に引き上げてもらえるという保証もない。
だが、このまま何もせずに手をこまねいているというわけにもいかない。ならばあとは運に任せるしかない。二度と帰ることができないと思っていた場所に帰ることができるまであと一歩なのである。
・・・・・
さて、何も妙案を思いつかずに護衛艦を眺めるだけの人だかりに紛れる俺であるが、どこの世界にも周りの迷惑を考えない不届き物はいる者である。
「おい!なんだ、邪魔だぞ」
「すまんすまん」
人だかりの中で大きな旗を振り回している男に周りの群衆から怒りの声が上がる。こんな人だかりの中で甲子園の応援席で振り回すような旗をこんな人ごみの中で振り回すなと言いたくなる。
「さっき買ったばかりでな。おーい」
「あぶねえから振り回すんじゃねえ!」
この人だかりの中で他人の迷惑を考えず旗をさらに振り回す男が護衛艦に見せつけるように振っているのは白地に赤い丸、日の丸である。今風に言えば関連グッズといったところなのか、どこにでも商魂たくましいのはいるもので人によっては小さい手旗を持っているのもいる始末である。
・・・そう、旗である。
これを見てあることを思いついた俺は思わず笑みをこぼす。俺は日本人だ。そして地球人である。この異世界で俺にしかできない護衛艦への連絡の取り方があるのだ。それに気が付いた俺はすぐにそれを実行するため、港を後にした。




