第六話 十階層ボス
ボス部屋は他の階層とは違ってフィールド状になっており十階層は森林となっている。
詩音は中に入ると周りを見て感嘆の声を上げた。
「へぇ…凄いわね。こんな場所になってるなんて」
「まぁ、ボスがいるくらいだからな」
「あんたが作ったんでしょ」
「まぁな、俺の趣味趣向の塊だ」
「なかなかいいじゃない」
「どうも」
一通り会話を終えると詩音は気配を探る。
すぐに気配を見つけたのか歩みを進める。
ここ十階層のボスはゴブリンキングかコバルトキングが出現することになっており群れを形成している。
注意すべき点としてはキング種を倒さない限りゴブリンやコバルトは無限に湧き出てくる。
他のボス部屋もそれまでの階層より難易度が何段階も上昇している。
故に時空迷宮は最難関迷宮として知られている。
だが、ここは十階層な事もあり群れの規模は小規模だ。
今の詩音ならば問題なく突破出来るであろう。
「ねぇ…ここってボスが2体いるわけ…?」
「ん、一体のはず…わぁお」
俺達の目線の先にはゴブリンキング、コバルトキングの2体が鎮座しておりその手前にはゴブリンやコバルトは軽く3桁を超えており、中には上位種もいた。
「流石にこの数を相手するとなると骨が折れるわね…でもそんな事も言ってられないわ!」
この世界に来てから詩音の内面は大きく成長していた。圧倒的数を前にして逃げ出そうとはせず勇敢に立ち向かった。
まぁこれは以前より強くなっているし俺もいるから何だろうけどな。
「俺は手出しせんぞ」
「…了解ッ!」
詩音は早速神スキルの空神術を使う。
やはり神スキルなだけあって以前は魔力の制御が疎かで使えるレベルじゃ無かったが今は問題なく戦えている。
「チッ…やっぱり数が多いわね」
個の戦闘能力は低くても数が集まれば脅威になる。
数とは一種の強さだ。
それを詩音は今身に染みて感じているだろう。
俺は時々詩音を無視してこちらに来る敵を倒しながら詩音の動きを観察していた。
ここにきて大量の敵と戦うとは思ってもいなかったので範囲攻撃魔法を教えて居なかったのだが何とかなっている。
俺は詩音の近接戦闘においての才能を感じていた。
(詩音はやはり、肉弾戦において無類の強さを誇っているな…。まぁ、まだまだな部分もあるが短期間でここまで出来るなら天才と呼べるだろう)
俺は今後の教育方針を修正し、近接主体の方針でいく。
「詩音!目の前の敵ばかりに集中してると後ろからの不意打ちや囲まれる危険性があるから常に周りにも気を配え!」
詩音からの返事は無かったが詩音の動きには多少の余裕が生まれていた。常に周りに気を配る事で次の敵の動き周りの動きが把握でき、次の自分の行動の最適解を導き出すことができる。
たが、ただ気を配るだけじゃここまでは出来ない。
流石気配察知を覚えさせただけある。
詩音は不意打ちにも対応し、被弾もなくなった。
普通は慣れるまでに時間がかかるのだが瞬時に対応してみせた詩音はやはり規格外なほどの天才だった。
一通り雑魚を倒し終わった詩音は椅子に鎮座する2体のキングを睨んでいた。
キング達は重い腰を上げゆっくりと歩みを進める。
2体と一人が対面し、すぐに戦闘は始まった。
「動きはそこまで速くはないわね」
体が大きな分スピードは遅めだが一撃一撃が重く上手く2体で連携して詩音を仕留めようとしている。
「クッ…鬱陶しいわね…」
2体の見事な連携になかなか手を出せず詩音は苦労していた。
「落ち着け!詩音!その状態でも出来る事はある!視線誘導、重心移動で攻撃を誘え!そうしたら隙が生まれるはずだ!相手の視線、呼吸、動きを見極めろ!」
詩音の動きにはフェイントも混じるようになっていた。
しかし、フェイントをするので手一杯で隙が出来ても反撃にまでは至っていなかった。
まぁここまで出来ていたら上等だろう。
俺はキング2体を空間ごと捻り潰した。
「流石にキング種2体は始めにしてはきつい相手だ。だが、あそこまでやれたのはすごかった。今回は倒せなかったが成長に繋がっただろう。よくやったよ」
「…ありがとう」
やはり、慰めても落ち込んでいた。
攻撃こそ当たる事はできなかったが相手もそれは同じだった。
これでこの世界に来てから数日しか経ってないのだから驚きだ。
「とりあえず十一階層に行ったら切り上げるぞ」
俺達はボスを倒して開いた扉を抜けて十一階層へと行き、地上へと転移した。