第二話 冒険者ギルド
一旦思考に耽るのはやめて隣で呆然としている詩音に声をかけた。
「大丈夫…か?」
「…」
これは相当にショックを受けているらしい。どうも人間は拒絶する側から拒絶される側に回るとこうなるらしい。
こう言う時にどうすればいいのか分かるわけもなくとりあえず反応があるまで話しかけ続けた。
「なぁ、いつまでそうしてるんだ?」
「…」
「そろそろ立ち直ったか?」
「…」
「う〜ん…どうしたものか…」
「……てよ」
「ん?」
「ほっといてよッ!」
どうやら失敗したらしい。
ついには蹲って泣き出してしまった。
これはいよいよ本当に困ってしまった。
俺には泣いている女の子を慰める術はない。
いくら神とはいえ万能ではないのだ。
とはいえこのまま放っておくわけにもいかずとりあえず詩音が泣き止むまで隣に腰掛けて待つ事にした。
ただ、俺は一つ気になることがあった。
王様が詩音を追放とした理由だが、あれはあまりにも理不尽なのだ。
空間魔法は難易度が高いとはいえ絶対に使えないわけではない。
確かに魔力を多く必要とする術もある。しかし、他の魔法と同じく少ない魔力量で発動できる術もある。
なんなら他の属性よりも低燃費で攻撃力の高い魔法が撃てるのだ。
「ねぇ…」
「ん、なんだ?」
「なんで私を見捨てないの…?」
「なんでって仮にも俺達知り合いだろ?俺は知り合いをましてや女の子を見捨てられるほど非道じゃない」
「私はあんたを虐めてんだよ?なのに知り合いってだけで見捨てないなんて…どうかしてる」
「はは、よくお人好しってみんなから言われてたよ」
「みんな…?あなた舞花と喋ってるとこしか見たことないけど」
「あ〜…あはは…まぁ…そのネッ友?とかそう言うやつ…」
「ふぅ〜ん?」
「ま、とりあえず行くぞ」
「行くってどこに?」
「俺達は今じゃ日本で言うニートだ。だから仕事を探しに行くんだよ」
「仕事?そんなのこの世界でやっていけるの?」
「まぁまぁ、当てはあるから着いてこいよ」
日本にいた頃とは違って素直になった詩音は大人しく着いてきてくれていた。
そして、俺が目指している場所は冒険者ギルドと呼ばれる場所で誰でも冒険者になれる素晴らしいところだ。
「さ、着いたぞ」
「大きいわね…」
建物のあまりの大きさに詩音は驚いていたが俺は気にせず中に入っていく。
詩音も後から入ってきて受付で二人分の登録を行う。
「登録をしたいのだが」
「はい、畏まりました。ではこちらにお二人のお名前をご記入下さい。あと任意でスキルや得意武器などを書くことも出来ます」
俺と詩音は名前だけ記入し、受付嬢に渡した。
「少々お待ち下さい」
「ねぇ、ここは一体なんなの?それに冒険者って?」
「ここは冒険者ギルドといって冒険者の仕事場の一つかな。冒険者って言うのはギルド内にある掲示板から依頼を選びそれを達成してお金を稼ぐ職業だ。ま、詳しいことはこれから説明されるだろうからよく聞いておいた方がいい」
丁度よく受付嬢が帰ってきた。
「お待たせしました。こちらがお二人のカードになります。こちらは初回無料ですが、紛失されますと再発行に銀貨を支払っていただきます」
「了解しました。ありがとうございます」
「その他についてご説明出来ますがどうされますか?」
「お願いします」
「はい。ではまず、冒険者は大まかにランク付けされており、下からG F E D C B A S SS SSSとなっております。お二人のランクは一番下のGとなります。ここから依頼を達成などの実績を積まれますと一つ上のランクへ昇格となります。Dランクからは試験がありますのでご注意を。そして、依頼にもランクが設けられておりこれは冒険者のランク分けと同じで冒険者は自分のランクと同じか一つ上のランクの依頼しか受けることが出来ません。もし依頼を失敗されますと違約金として報酬額と同じ金額を支払って頂きます。そして、当ギルドは冒険者同士のいざこざ、依頼中の怪我等については一切責任を負いません。全て自己責任でお願いします」
「ほうほう、ありがとうございました」
「いえ、ではまたのご利用を」
詩音は受付嬢の説明を聞いて何となくは理解できたようだ。
この先俺が随時教えていけばいいだろう。
今から依頼を受けるのもあれなので王様からもらったお金で宿をとり明日依頼を受けることにした。
その日の夜、詩音が俺の部屋に尋ねてきた。
「ちょっと…いい?」
「あぁ」
詩音はゆっくり部屋に入りベットに腰掛けている俺の横に座った。
「追放されたけど、今こうしてあんたのお陰でなんとか生活していける目処はたった。それについては感謝してる。でも私はあんたに感謝したいんじゃ無くて謝りたいの。…その…ごめんなさい。理由はどうであれ関係のないあんたに不快な思いをさせたのは許されることじゃない。これはただ私が満足したいだけかもしれない。でももう一度謝らせて、本当にごめんなさい」
そう言って俺に詩音は頭を下げた。
「はぁ…頭を上げてくれ。別に俺はそこまで気にしていない。それに今こうして謝ってくれたんだからもういいよ」
「…ありがとう」
こうして俺たちの間にあった微妙な距離も縮まり、今後の方針を二人で話し合い明日に備えて早めにベットに着いた。