第一話 召喚
突然だが俺、空崎時雨には好きな人がいた。
それは幼馴染の霧崎舞花だ。
彼女は超絶可愛くて人当たりも良く誰からも好かれるタイプの人間だ。
それに対して幼馴染である俺は教室の端で小説を読んでいるような陰キャだ。
見るからに不釣り合いな俺は彼女の事を諦めかけていた。
しかし、ある日クラスの陽キャの頂点である島原流星が舞花を狙っていると噂に聞いた。
流星は女子からの評判はいいが男子からは嫌われている。
あいつは人の彼女を平気で寝取る奴なのだ。
今回は俺の彼女でもなんでも無いのだが、下半身で生きているような男には舞花は取られたく無い。
かと言って何かできるわけでは無いのだが…。
「あんた、また本なんか読んでるわけ?」
「……」
「無視してんじゃ無いわよっ!」
俺は急に絡んできた女に胸ぐらを掴まれた。
彼女は朝田詩音と言ってツインテールがよく似合う美少女だ。
彼女はどうやら流星に気があるようだが流星は舞花の事が好きなのに気付いているようでストレスが溜まっているらしい。
直接舞花を虐めるわけにはいかず、幼馴染である俺が目をつけられてしまった。
俺としてはとんだ迷惑なのだが舞花が虐められるよりはマシだ。
「あんた、いい加減にしなさいよ…?」
詩音が俺に手をあげようとした瞬間、教室の床が白く光り目の前は閃光に包まれていた。
◇
徐々に光が収まっていく。それと同時に俺の脳内に記憶のようなものが流れ込んでくる。
「うぅ…」
その記憶とは俺は元々人間ではなくかつて最高神と呼ばれた神の頃のものだった。
「そうか…俺の真の名は時空神シヴァノリス」
俺は記憶を取り戻し今の状況を忘れていたがその他はそうでは無い。
「ど、どこなんだここは!?」
その声で今自分が置かれている状況に気がついた。
自分達の下には大きな魔法陣が描かれており、すぐに召喚陣である事を見抜いた。
そして目の前にはドレスを身につけた少女と鎧を纏った兵士が数人いた。
少女は疲れたように倒れ込み兵士がそれを支え液体を飲ませる。
液体を飲んだ少女は回復し、未だ混乱し続けている俺達に声をかけた。
「急に呼び出して申し訳ありません。私はヘリオス王国第一王女アメリアで御座います」
「アメリアさんでいいのかな…?ここは一体どこなんだ?」
声を発したのは流星だった。
王女をさん付けで呼んだことに対して兵士は眉を顰めるが王女が手で制す。
「ここはヘリオス王国と言ってそのお城の地下です」
「ヘリオス王国…?ここは日本じゃ無いのか?そもそもここは地球なのか?」
「ニホン…?チキュウ…?あぁ、あなた達がいた世界の事ですね!残念ながらここはヘヴァンと呼ばれる世界であなた達にとっては異界の地になりますね」
「異界の地…か…はは…夢か何かなのかな?」
みんな頬を摘んだり肩をつつきあったりするが目が覚めることはない。
いやでも現実だと思い知らされた。
「ここで話すのもなんですのでこちらへ来てください」
俺以外はまだ状況が読み込めておらずとりあえず王女について行っていた。
何故俺が冷静でいられるのかはこの世界を知っているからだ。
元々ここは俺が管理していた世界の一つだった。
故郷に帰ってきた感じがしてどこか懐かしく思えた。
感傷に浸っているといつの間にか広い部屋に案内されていた。
そこには玉座に王冠を被ったいかにも王様って感じの人物が座っていた。
王様は口を開き、混乱状態の俺たちに説明を始めた。
「貴殿らは魔王を討伐すべく召喚された勇者である。我らでは到底太刀打ちできずこうして異界の勇者に頼らざる得ない事を情けなく思うばかりだ。それに勝手にこちらの都合で呼び出してしまって申し訳なかった」
「えっと…とりあえず僕達は元の世界に帰れるのですか?」
「あぁ、帰れるはずだ」
「でも、俺達元の世界では普通に暮らしてて戦う事なんて出来ませんよ」
「む?異界の勇者は誰もが規格外の能力を有していると記録されているのだが、ステータスは見たのか?」
「ステータス?なんですかそれは?」
「説明するよりも見た方が早いだろう。心の中でも声に出してでもステータスと唱えてみよ」
──ステータス
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名前 空崎時雨
権能 時空間之操者
称号 【最高神】【超越者】【異界の勇者】
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ま、大体予想はできていたがこんだけ少ないとなんか寂しいよな。それにまだ完全な状態に戻った訳じゃなさそうだな。
俺は神にだけ許された力で他のやつのステータスを覗き見る。
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名前 霧崎舞花
種族 人
Lv1
HP 600/600
MP 300/300
力 50
防御 30
精神 70
俊敏 80
運 40
スキル 【時間魔法】【治癒魔法】
称号 【異界の勇者】
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名前 島原流星
種族 人
Lv1
HP 800/800
MP 100/100
力 150
防御 50
精神 50
俊敏 90
運 35
固有スキル 【勇者之聖剣】
スキル 【光魔法】
称号 【異界の勇者】
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俺以外の中ではこの二人が飛び抜けて強いステータスを持っていた。
皆自分のステータスを開示していくのだが俺の場合生物としての格が違いすぎるため俺のステータスを見れたやつは居なかった。
「空崎くんのステータスは何故見えないのかな?」
「知らない」
「今の状況でステータスを隠すのはどうかと思うよ」
「隠しているつもりはない」
「じゃあ何故見えないんだい?隠してないんだったら見えるはずだよね?あぁ、なるほどステータスが弱すぎて恥ずかしいんだね?そりゃあ幼馴染の前で弱い姿は見せられないもんね」
「あ?なんだと?」
「ち、ちょっと流星くんも時雨もやめて!」
「まぁいいさ、でも弱いステータスじゃ魔王は倒せないよね?僕は知り合いが死ぬのは見たくないんだ。王様、どうか彼だけは自由にさせてあげてはもらえないでしょうか?」
「お前…!」
「あぁ、いいだろう。それと、時空間系の魔法をだけを持っている者も魔王は倒せなだろう。なにせあの魔法達はとてもじゃないが魔力が足りなくてまともに使えないからな」
「なっ…」
これに反応したのは空間魔法を持っていた詩音だった。
「どうしてよ!なんで私が…」
俺と詩音は城から実質追放されたようなもんだった。
詩音はたまたまだろうが流星は俺を舞花から遠ざけようと目論んでやったに違いない。
ここにきて自分のステータスが仇となった。
すでに俺たちは必要最低限の物資と金を渡されて外に放り出されていた。
舞花を残してきたことに不安は残るが自由になれたのは悪いことではなかった。
俺は流星からどう舞花を取り返すか考えていた。
勝手に幼馴染を自分のものだと思っている主人公もなかなかやばいですね…