伯爵家会議
ずっと下書きにあったので投稿します。
本編の少し前のお話。
ニコラスは想い人を探すために、側近の三人に協力を仰いでいた。
一人目は秘書のカミーユ。通称カミル、幼馴染でとても悪知恵が働く男。
「つまり、ニックはその女性を探したいのでしょう?ん~…では女装しましょうか」
「待て待て待て、どうしてそうなる!?」
「お前の頭の中だけで展開して口に出すなと、いつも言ってるだろう」
二人目は護衛騎士である年上のギルバート。通称ギル、実直で裏表のない性格が気に入っている。
カミーユの発言に、ニコラスとギルバートが即座に突っ込みを入れるのはいつもの光景だ。
「まず交流会という名で未婚で社交デビュー間近の女性を集めます。伯爵の名で誘えば下位の貴族は喜んで参加するでしょう。年下との情報があるので、数年続ければ引っ掛かる可能性があります」
「引っ掛かる言うな」
ニコラスが、けれどもっと高位の貴族だったら?と質問する。
「侯爵以上は選民意識の高い方々です。話では女性のご両親は南の方で間違いないので、まずないかと…」
ニコラスは口に手を当てて考える。
「それで?僕が女装しなければいけない要素はどこにあるんだ?」
「ニックはまず顔を見せる事が出来ません。この時点で変装するか、見えない所で見守るかになります」
「僕が見えない所にいるわけないだろう。令嬢達の話を聞かなければわからないじゃないか」
「ですよね。正直身代わりとしてギルは会話が、アーニーは容姿が伴わないので役不足なのです。結局私かニックしか候補に残らないのであまり意味はありません」
つまり候補として顔を出すなという事か
三人目は年下の従兄アーネスト。通称アーニー、叔父が忙しい為、伯爵邸で共に暮らしている。
アーニーが僕も参加するの!?と目を丸くして呟いた。
「令嬢達にニコラスが誰かを探してもらう必要はないのです。私達が令嬢の中から目当ての方を探すのが目的なのですから」
「女装か…もう少し若い頃は出来たが、今も出来るだろうか?」
「ニコラスはなよっちいから、今でも十分女で通用するだろ」
ははっと笑うギルバートに、ニコラスは嬉しくない心情を表したような、引きつった笑みを浮かべた。
「…ギル、お前に比べたらカミルだって女に見えるだろ」
ギルバートは騎士なので、背は高く逞しい体つきをしている。自分がギルバートと同じ年齢になっても、そんな体型は得られないだろう。苦し紛れにカミーユを使ったが、当のカミーユは私は女装しませんからと余裕の笑みを浮かべている。
「まず私達が、会話である程度数を絞りましょう。ニックが体験した事や会話を事細かに教えてもらえたら早いのですが…」
あの時感じた経験や気持ちは自分だけのものだ。それを他人と共有するのは嫌だったニコラスは躊躇った。それを察したのか、カミーユは幼馴染の惚気はあまり聞きたくないがと言いつつ無理やり誘導していった。
「けれど、目当ての令嬢以外にバレたらどうするんだ?」
「条件通りなら結婚ですかね」
「おい」
「まあ、そこまで聡い方ならこちらの事情を汲んでくれる可能性が高いでしょう」
「くれなかったら?」
「結婚ですかね」
真顔で黙ったニコラスに、カミーユは冗談ですと答えた。
「位の低い貴族令嬢ばかりですから、それなりに金銭を渡せば交渉できるはずです。何より私との会話で伯爵の正体を突き止めるのは無理ですから。貴方が何かへまをやらかさない限り」
じっと聞いていたギルバートがあははと大声で笑い出した。
「確かに。ニコラスはたま~に、アーネストの坊ちゃんよりやらかすからなあ」
自分の人生がかかっているのだから、何が何でも失態は犯さないに決まっている。とうとう本格的に機嫌を損ねたニコラスに皆が声をかける。
「まあまあ、俺たちは主人の幸せを願ってるから協力するんだぜ?」
「そうだよ!兄様の為に僕も頑張るよ」
ギルバートとアーネストの言葉に少し感動していると、続いてカミーユも口を開いた。
「私はちゃんと時間外労働分の給与を頂けたら十分です。令嬢に当りをつけたらその方の過去を徹底的に洗います。それでも見つからなかったら観念して政略結婚されてください。貴方は伯爵家の跡取りなのですから」
「カミル、お前の言葉で台無しだよ」
けれどこれも正論なので否定はできない。遠慮のない幼馴染は誰よりも言いにくい事を率先して言ってくれる。そんな相手が側にいるのは有難い事なのだろう。
「でもニコラスの事で中心に働いてるのはカミルだからな。一番心配してるのもきっとカミルだろうよ。な?」
ギルバートの言葉に素知らぬ顔をしていたが、何も答えないのを見ると真実なのかもしれない。そしてこちらを向いてぽつりと言う。
「ニックが真実を追い求めて幸せになろうと不幸になろうと、私達は側にいます。貴方が納得できる未来が今よりも幸せでありますように」
目を合わさずに少し照れくさそうに言う幼馴染を見て、このツンデレめと思ったが言わないでおく。代わりに家族のような彼らに眩しい笑顔を向ける。
「みんなありがとう」