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お茶会の終わり

笑顔で答えてくれた真ん中の男性を見ながら、コノエは無意識に周りを見た。


伯爵がこの場にいる…?としたら三人の誰か?いや、どこかで見ている可能性も…。ここは伯爵の屋敷だし


また思案し出したコノエに、最後の質問が返ってくる。


「率直に、ニコラス伯爵はどのような人物だと思いますか?」

「え?」


一言で言うなら変な人なのは確実だと思う。けれどそんな失礼な事は言えずに、少し考えて口を開いた。


「…変わった方だと思います」


伯爵の地位があれば相応の令嬢と、こんな面倒なやり取りをせずとも婚約できるだろう。大勢の女性と関係したい遊び人ならまだわかるが、姿さえ見せないのに毎回お茶会を開くのは面倒でしかないだろうに。


「でも、優しいです」


意外にも返って来た声は、一番幼い男性からだった。


「浮気もしないぞ。一途だからな」


次は筋肉質の男性から。


「きっと、結婚すれば大事にします」


ふっと真ん中の男性が笑うと、令嬢達のぐらつく心の音が聞こえた気がした。




お茶会は無事、とも言い難いが終わった。


最初は猫を被っていたコノエも、もう二度と来ることはないだろうと暴走してしまった自覚はある。


お…お兄様に叱られる…!


他の令嬢が退室する中で、兄の雷が落ちる妄想に震えながら、コノエは花を受け取る為に最後まで残っていた。


「お待たせしました。馬車までお運びします。顔色が悪いようですがどうかしましたか?」

「い、いえ…」


コリンに小さな鉢植えを持ってもらい、一緒に庭園を通って行く。


「是非またお越しください。美味しい茶葉を取り寄せておきます」

「ふふっありがとうコリン。けれどまた招待されるかもわからないし、お兄様が許可してくれないと思うわ」


散々やらかしたので、また当分屋敷に閉じ込められるかもしれない。


「ハイドラーク男爵ですね」

「あら、コリンはお兄様をご存じなの?」

「若くして爵位を継がれた者同士、伯爵とも交流がありましたから」


そうなの!?じゃあお兄様もここにも来た事あるのかしら


「お兄様はすごいのよ。ひとりで男爵家を支えてるのに、私は社交すらまともに出来ないんですもの。きっと男爵家の恥になるからってまた叱られてしまうわ…」

「男爵が…ですか?そういう方だとは思いませんでしたが」


どういう意味?とコリンを見ながらコノエは首を傾げた。


「妹君をとても大事にされている方だと思っています」


コノエは前かがみに躓き、転びそうになった。


「えっ…!?」


そう思った事は殆どないが、もしかして外では愛妹家で通っているんだろうか?


「コノエ様がそう思うのは何故なのかお聞きしても?」

「うーん、自分が不出来なのは自覚してるんだけど…、毎回お前に社交は早いと言われるし、手紙だって兄が選別して渡してくれるの。求婚状は毎回勝手に断られるわ」

「…コノエ様は早く結婚されたいのですか?」

「結婚したいというより、令嬢って家同士の繋がりを強める為に嫁ぐのが役目じゃない?私には男爵令嬢の肩書しか役にたつものはないもの」


少し悲しそうな顔をしたコリンに、慌ててフォローする。


「別に卑下してるわけじゃないの!お兄様の足手まといになるくらいならさっさと嫁入りしたいなって」


俯いていたコリンがこちらを見たと思ったら、不思議な質問をしてきた。


「その、男爵が断った求婚者は覚えていますか?」

「え…?」


正直正確には知らないが、何人かは教えてもらった覚えがある。


「インドラー男爵とミュデラー子爵は覚えているけど…」

「ああ…」


何か腑に落ちたように呟くコリンを見ながら、問いただしたいのを我慢しながらじっと答えを待った。


「インドラー男爵は召使と関係して子供がいたはずです。その為元いた婚約者と破談になったとか。ミュデラー子爵は後妻を希望している五十代の方ですよ」


ひえ!?


コノエは事後承諾でお断りした相手の名前だけ教えてもらったが、どういう相手かまでは知らなかった。兄が断ってくれて良かったと今初めて思った。


「どちらも資産があり、結婚するだけなら申し分ない相手かと思います。けれど男爵はきっとコノエ様の事を考えてお断りしたのだと思いますよ」


お兄様…


「男爵は少し言葉が足りない事も多い方ですからね。それに言葉にしないと男爵もわからないのではないでしょうか。コノエ様は思っていることをちゃんと話し合われていますか?」

「いいえ。わざわざお時間をとらせるのも悪いし、それに、意図的に避けてた部分もあると思う。嫌われたくなかったから…。私はお兄様と血が繋がっていないし…」


言いかけてはっとした。こういうお家事情は迂闊に話してはいけないのではないかと思ったからだ。けれどコリンは綺麗に微笑みながら応えてくれた。


「一緒に暮らせば家族です。皆、血の繋がっていない同士で結婚して家族になるんですから、相手を思いやれるなら十分でしょう。それともコノエ様は男爵がお嫌いですか?」


コノエは勢いよく首を振った。


「いつも忙しそうで身体を壊さないか心配はするけど、嫌いじゃないわ」


ゆっくりお話しできるといいですねとコリンが笑ってくれたので、コノエも笑顔を頷いた。


「それにしても、コリンは他家の当主の事に詳しいのね」

「伯爵家には優秀な秘書がいるので、色々教えてもらえるんです」


もしや恋人かなとコリンに尋ねると、ありえませんと何故か青ざめた。仲が悪いのかな?


まあ言いたくないなら聞かないでおこうとコノエは話題を変えた。


「ねえ、コリンは伯爵が誰か知っているのよね?」

「それは私の口から言うのは禁止されています」


ふっと笑ったコリンを見て、やっぱりダメかコノエは口を尖らせた。


「コノエ様はあの三人の中で誰がニコラス様ならいいと思いますか?」

「え…三人のうち二人はあまりお話してないからわからないわ。一番話したのは真ん中のニコラス様だけど、あの方は少し意地悪いと思う。笑顔がとても黒かったもの」


それを聞いてコリンも笑い出した。


「あの方はとても頭がいいのですが、少し口うるさいんですよね」


二人で笑い合っていると、いつの間にか馬車が待っている入り口に着いた。お茶会に参加して一番仲が深まったのは、伯爵でも令嬢でもなく、侍女のコリンかもとコノエは笑った。




馬車に乗り込む時に手渡された花を見ていると、コリンが話しかけてきた。


「この花の名前は知っていますか?」

「え?ええっと、昔は覚えていたんだけど」


南にいた頃はよく見ていた花なので知っていたはずだが、東に来て頭に詰め込むことが多くてすっかり忘れていた。


「鈴鳴草って言うらしいですよ」

「えっ…?」


確かに聞き覚えがある言葉だった。でも何か違うような気もするが、それすら思い出せない。


「また会えますように。お待ちしていますね」


コリンと別れた後も、馬車の中でずっと花の名前を記憶の中から探していた。

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