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1 使用人扱いにされた男爵令嬢の自分

「もう限界だわ、貴方、この娘を家から追い出して下さいな!」


 義母は刺々しい声で言い放った。

 先ほど、何故か廊下に張られていた縄に引っかかって足を取られたら、何故かその拍子に家の中でも高価な異国伝来の壺を転ばせて割ってしまった……

 その音が響いた時、あの女の勝ち誇った顔!


「この壺は、向こうの名家から貰ったもの。それをこの様にしてしまったというのは、過失としても許す訳にはいかないな。……いやもう茶番は止すか。いい加減、こんなことを続けていてもお前のためにならないぞ。出ていけ、その方がお前も楽になるんだ」


 私はよろよろと立ち上がる。


「……はい、そうですね。もういい加減その方が良いですね」

「判ればいいんだ判れば。さあとっとと、この家から出ていけ」


 私は黙って屋根裏の自室まで行くと、既にまとめてあった荷物を取り出した。

 そして壁につけていたカレンダーを見る。


「待ってたわ、この時を」



 小さな時のことだ。

 母は私に対してほんのりとした優しい記憶しか残さず亡くなった。

 それ以来父は荒れた。

 このハイロール男爵家にはそれなりに事業で蓄積した資産があった。

 が、母の死以来しばらく、父はただ浪費するだけの生活になってしまった。

 それをみかねた母方の子爵家の祖父母が様子を見に来るのだが、その都度「自分は悲しみに打ちひしがれて何もできません」という態度をとった。

 父は出産以来の母の健康を奪ったとばかりにまず私を憎んだ。

 私は乳母と、時々来る祖母の愛を受けて育った。

 そして母方の祖父母は自分達で私を引き取ろうか、と考えていた。

 そのままこの家においておくことが私のためになるのか、と考えて。

 だがその望みは叶えられなかった。

 と言うのも。

 祖父がその頃、収賄の罪に問われたからだ。

 私はまだ八つだった。

 裁判の結果、子爵である祖父は十年間の爵位停止。

 そして蟄居を命じられた。

 祖父と言っても、まだ五十代、働き盛りにとって、それはなかなかに厳しい処分だったそうだ。

 そもそもその収賄にしても、本当にそれがあったのかどうか怪しいところだった。

 要するに祖父――ロルカ子爵は、その時期の政争に負けたのだ。

 実際に収賄があったのか、ということはどちらでも良い。

 ともかく祖父がそれをした、ということにされるだけの隙があったということなのだ。


「……十年……! 十年経ったらお前を子爵家の跡取りとして迎えに行くぞ」


 祖父はそう言って、私を男爵家に残したまま、別荘に軟禁状態となった。


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