第八話
「‥‥‥全く、お前は一体何ができるんだよ。ていうか元いた世界ではなにをしてたんだ?」
隣で「魔力‥‥‥魔力さえあれば」とぼやいている中二病の異世界転生者に質問をする。
「ふふ、気になる? 私はねー、<商人>をやってたんだー!」
「しょ、商人? へ、へー」
<魔法剣士>とか<賢者>とかそんな大それたものではないとは思っていたが‥‥‥。うん! この話しはやめよう。
「ちょっと、商人を甘く見たらダメだよ! 商人だって色々大変なんだよ!」
「だ、だよな! 商人も大変大変! わかるわかる!」
「ふむふむ、よろしい。商人の大変差をまるでわかっていない君に商人とはどういうものか教えてあげるよ」
別に興味ないのだが。ミホが故郷の世界の商人について語り出した。
「商人はね、荒くれ者達を相手に商売をしたり、街から移動するのに砂漠をひたすら歩いたり、時には超絶希少なレアアイテムを求めて危険度SSSの邪悪龍の住む洞窟に一人突っ走っていったり、っていうこともあるんだよ!」
「ふーん。邪悪龍とかいたのか。お前どうせすぐびびって逃げていったんだろう」
「すぐじゃないから! その辺の小石を拾って、ビュン! と投げて、コツンと一ダメージだよ。そして全力ランナウェイ!!」
本物のファンタジー世界でもポンコツっぷりを披露しているらしいこの中二病を、ほんの少し、ほーんの少しだけ、本当に、ほーんの少しだけ蔑んだ目で見ているとーーってごほぉ! ちょ、おま、いきなり掴みかかってくるんじゃねごぼぉ! ちょ、わかったから、ごめんって、本当にやめーー、ふぅ。‥‥‥ごほぉ! てめぇ少し休憩しただけかこの野郎! う、ぐふぅ! ちょ、わかったから、中二病とか言わないから、本当にやめ、ちょ、しぬ、マジで勘弁しーー。
※※※
「ーーそういえば君の名前をまだ聞いてなかったね」
「う‥‥‥ごほ、ごほ。うぇ、な、名前? あぁそういえば言ってなかったな」
数十秒後、ようやくオレの胸ぐらから手を離し落ち着きを取り戻した中二病転生者にオレは自分の名前を教える。
「オレの名前は<村田士郎>だ」
「‥‥‥むらた‥‥‥早漏?」
耳も悪いらしいこの異世界転生者もどきを一発ぶん殴ってやりたい。
「だーれが早漏だ、士郎だ! し! ろ! う!。」
「おっけー、よろしくね。<ムラムラ早漏>くん!」
オレのことをとんでもない呼び方をしてくれやがったこの中二病クソビッチの鼻の先端に思いっきりかかと落としをぶちかましたい。
「よし分かった! ちょっと耳貸せ。ちゃんと聞こえるように大声でオレの名前を叫んでやる。」
「ふふん、どうよ! 悔しいでしょ! さっきからちょいちょい私のことをバカにしたような目で見るからだよ! ーーちょ、やめ、ごめんって! いだだだだだ、耳を引っ張らないで! ちょ待って! 耳元で叫ぼうとお腹に力を蓄えないで! ちょ! 許して! む、村田士郎くん!」
その名前だ。その名前が正解なんだ。その名前でしかないんだ。
「言っておくがオレは早漏じゃない。いいな、肝に銘じておくことだ」
「いてて、‥‥‥どうでもいいよ! もう! 耳がヒリヒリするじゃん」
「どうでもいいわけあるか! 次そんなこと言ったらお前の目の前で早漏じゃないってことを証明してやる」
「きも」
‥‥‥いや、ふと気がついたが、オレたちは今こんなどうでもいい話をしていて良いのだろうか。何か、何か大事なことを忘れている気がーー。
「よーーーやく見つけたぞ貴様らーー!! 早速殴りに行くからそこを動くんじゃねぇ」
「「!!」」
はい! 早速逃げましょう!