第四十八話 『開戦』
剣と剣がぶつかり合い弾ける。
連合軍の叫び、そして、主にローブを纏いし魔物達のしゃがれ声が、この大草原を、まさに詠唱の世界に変貌させる。
地上で戦うもの達の上空では、飛行能力を持つ者達が空中を駆け、空気を切り裂く音を木霊させる。
アリーナ入り口前は、ものの数分で完全なる戦場と化していた。
しかし、双軍ともに、未だに倒れているものはいない。
双軍の後方に設けられたいわゆる、回復役が無限に回復魔法を唱え続けている。
「ぐあぁ!」
連合軍の一人が敵から腹パンをモロに喰らう。しかし━━、
「よっしゃー! 回復ナイスぅ」
すぐさま癒しの魔法の光に身を包まれ、痛みや傷が一瞬で引いていく。
それは、魔物の軍勢も同じこと。一太刀浴びれば回復魔法、回復魔法、回復魔法。
まだほんの数分だが、戦争に等しい戦いだ。既に数百、数千の倒れる者が現れるのが普通だろう。
なのに、連合軍にも、魔物の軍勢にも、寝転がっているものは皆無。
むしろ、全員が笑っている。歓喜の雄叫びをあげている。
そんな中。
「グオオオオオ!」
魔物の軍勢の中から、赤い蒸気を纏いし親分が現れる。
蟻のような姿だ。ヒト型の蟻。成人男性とさして変わらない程度の高さに、頭には触覚のようなものが二本。筋肉質な肉付き。そして、闇を食って生きてきたかと思わせるほどに、ドス黒い。
ドヒュ。
ライオンが飛び跳ねるような音を立てて、その一匹の蟻は、空高く舞い上がった。
「な、なんか飛んできてるぞ──?」
一人の戦士が上空を見上げる。周りの者達も、釣られるように見上げた。
「蟻か? いや、ヒト?」
今、正に自分のところへと降ってくるであろう黒い槍をただ茫然と見上げる。
その瞬間、槍は消えた。
ドゴオオオン!
「「「ぐあああ!?」」」
消えたと思った槍は、地面へと突きさり、その衝撃波で爆発を巻き起こし、辺り一帯の地面が枝分かれするように砕かれていき、まるでパズルのピースを一つくり抜かれたように、沈下した。
「ふん。中々手強そうな奴が来たな」
オーガが蟻の前に立ちはだかった。
「ぐおおぉ」
蟻の鋭い眼光が目の前の鬼人を凝視する。
二人の周りの空間が悲鳴を鳴らしている。