第四十六話 『黒幕』
竜動脈奥地。そこでは現在、一人の人間と魔物との熾烈な戦いが繰り広げられていた。
「ギュグオオオ!」
トカゲ男のパンチがカザミに襲いかかる。
「ふぐ!?」
カザミはクロスさせた両腕で防御するが、そのまま吹き飛ばされ壁に衝突する。マイカと魔人ちゃんはカザミに手出し不要だと言われギャラリーと化している。
「くっそー。あの細い体にどこにあんな力があるんだ……。てゆーか魔人ちゃん笑うな!」
壁にできたクレーターからカザミが出てくる。
カザミが殴られるたびに魔人ちゃんがクスクスと口を抑えて笑っている。
「カザミ、遊んでないでさっさと決めろよ。見ているだけのこっちの気持ちだよ。ほんとに」
「あっはっはっは。ごめんごめん、そろそろ決めるわ」
カザミは地面を蹴り、一気にトカゲへと駆け寄ってゆく。
勢いよく距離を詰めてくるカザミ目掛けて、トカゲは今までで最大と思われる強烈なパンチを繰り出す。
「グギョオオオオオ!」
「食らえええー!」
カザミとトカゲの拳がぶつかり合う。しかし、カザミのパンチはトカゲの腕をもぎ、そのまま──、
「グギャアアア!」
トカゲの顔面に直撃ヒットする。カザミの拳がトカゲの顔にメリメリメリっと、音を立てて食い込んでゆく。
そして、トカゲ男はそのままバネが弾けるように吹き飛んでゆく。
壁に打ち付けられたトカゲ男は白目を剥いて気絶した。
「やっと終わったか。カザミ、ここは譲ってやったんだからギルドに帰ったら一杯奢れよ」
「金持ってないわ。てゆーかタダで飲み放題だろ。いやしかし、言うほど大したことはなかったな、この世界のモンスター」
「ふん。お前が強いんだよ」
カザミはデスオリでかなり鍛え上げられたのだ。
「そういえばずっと気になってたんだけど、このクエストの依頼人は誰なんだ? 内容も不明だけど、さっきのトカゲを倒すことなのかな」
ふとそんな疑問を口にするカザミ。すると、洞窟の入り口の方から音が聞こえてくる。
パンパンパンパンパンパン。
誰かが拍手のような音を立てながら三人の方へと近づいてくる。
「「「!?」」」
三人は絶句した。
拍手をしながら現れた者の正体。それは数多の者たちを死に追いやったあの《謎フード》だった。
「ブラボー! いやー強いねえ君ぃ」
謎フードの人物が言う。しかし、どこか様子が違った。この世界にいる転生者たちを死に追いやったあの人物よりも身長が低いように思える。それに、あの人物は終始無言だったのだ。
「お前、誰だ? 『圧倒的強者』……とか言うやつか?」
「せーいかーい」
その人物はフードを外した。すると、中から出てきたのは紫の髪色と目をした少年だった。
「やあ、僕の名前は《ネクロ》だよ。よろしくね」
「なんのようだ、また私たちを殺しにきたのかい?」
「『また』って……人聞きが悪いなあ。君たちを殺したのは僕じゃないでしょ。この世界に来たのはただの暇つぶしだよ」
「暇つぶし?」
「そう。この世界にいる人や魔物は強いって聞いてね。人VS魔物、なんて起こさせたら面白いんじゃないかなあって思ってさ」
「人VS魔物? ━━まさか!?」
マイカは目を見開き驚愕をあらわにする。
ネクロは口角を上げて、歪に笑いながら言う。
「はははは、そうだよ。この世界のモンスターを操っていたのは僕さ」
「操ってどうするんだ!」
カザミが声を荒げて叫ぶ。
「ゲームだよゲーム。《神の代理》のところに居ても退屈だからね。魔物VS人類、どっちが勝つか見ものだとは思わないかい?」
「ゲーム……だと?」
「そう。でももう始めちゃったんだよねー」
「始めた?」
「うん、さっき魔物の軍勢をアリーナに向かわせたよ。ここにくる道中ほとんど魔物に出くわさなかったでしょ? ほんとはもっと強くしてからにしたかったんだけど、いやー、痺れを切らしちゃって━━」
「ふざけるな!」
カザミのパンチをヒョイっとかわすネクロ。
そしてネクロは言葉を続ける。
「おっそいパンチだね。━━あ、そうそう。このクエストを貼り付けたのも僕なんだよ。さっきあのトカゲを強化したんだけど、どれほどの強さになったのか転生者で試してみたくてね」
「強化━━? はーん、なるほどねぇ。魔物を統率している魔物はお前が手を加えた『強化個体』と言うわけかよ」
マイカが問いを投げる。
「おぉ! ブラボー! いやはや、たった一日でそこまで把握していたとは……、アリーナの情報網はすごいなぁ!」
「もう一つ答えろ」
「なんだいなんだい?」
「あの霧もてめぇの仕業か?」
「あーあれね。違うよ、霧は僕じゃない。でもあの霧にはどうやら魔物たちの闘争心を刺激する作用があるらしくてね。それを利用してチョチョイっとしてあげるとあら不思議。いともかーんたんに操れちゃうんだから、ちょろいもんだよねー」
そして、ネクロは不敵な笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「てかさー、こんなところで駄弁ってていいの? 君たちも早く転生者のところに加勢しに行かないと」
「━━!? ……くっ。魔人ちゃん、マイカ! 戻ろう!」
三人は急いで洞窟の入り口へと走り出す。
しかし、マイカは一度立ち止まり、ネクロに言葉を投げる。
「ふ、お前さー。余裕ぶっこいてるけど、一つ重大なことを見落としてるぜ」
「……?」
マイカの一言にネクロは首を傾げる。
「分かんねーのかよ。へ、ゲームが始まる前に既に足元すくわれてるてめぇに勝ち目があると思うか?」
そう言ってマイカは二人の後を追いかけてゆく。
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