第四十三話 『パーティ』
ここは巨大な街 《アリーナ》。この世界で一番の名物《闘技場》が建てられており、いつからか、毎日と言っていいほど《決闘》や《闘技大会》が開催されることからそう呼ばれるようになった。
要するに《アリーナ》という名前はあだ名のようなもので、この街の本当の名前は別にあるのだ。
「ジジイ、オーガ、ミホ、魔王。お前たちは『霧』のことを調べておいてくれ」
カザミの言った指示に四人は頷く
カザミ達の居座っているこの場所はギルドだ。闘技場前の広場の端に建てられている城よりも大きな拠点だ。
ここでは身体を休めるための宿舎があり、パーティを組んだり、クエスト受注、そして、飯やドリンクを山盛り提供してくれる。
ここでのサービスは冒険者には些細な割り引きが効くが、今回《闘技大会》に参加する転生者達には衣食住のサービスが全て無料となっている。
ただ、例の霧は建物内にまで侵入し、床に点々と漂っている。しかし皆は気にすることなく過ごしていた。
「そして魔人ちゃん。私達は魔物達の強さがいかほどか、小手調べと行こう」
カザミが魔人ちゃんに振り向いて言う。
「……カザミ……弱いから……心配」
「おい魔人ちゃん。勇者である私にそんなことを言うなんて良い度胸じゃあああないかあああ!」
カザミは魔人ちゃんに殴りかかるが、魔人ちゃんはカザミのパンチをすり抜けるように躱してトライアングルチョークを放つ。
「やっぱり……カザミ弱い」
「ひぐしょー(ちくしょー)」
カザミと魔人ちゃんのこのじゃれ合いも、大仕事前のウォーミングアップ──なのだ。
ニッポンファイターズがいつものように和気藹々としていると、そこに何者かが近づいてきていた。
ニッポンファイターズとは日本からの転生者達のことである。
カザミが命名した。
「よう。昨日ぶりだな」
背中に巨大な剣を携え、薄い布を巻いただけのクレイジーな装備をした女がカザミたちに笑みを浮かべながら話しかける。
「あ……マイカ……」
「ふふ。魔人ちゃん、今日もいい具合にはつらつとしているねぇ」
「うん……マイカも……絞める?」
絞め続けられているカザミを見てマイカは顔を少し引き攣って気の毒そうな顔をした。
「はっはっはっは! そりゃあいいな! だけど、また今度にしておくよ。お前達とは《闘技大会》で正式にやり合いたいからな!」
そろそろカザミが昇天しそうだ。その様子を見て気を使ったのか、マイカは誘いを断る。
「あんたらの来たのには理由があってさ。まぁ、なんだ……昨日でっかいクエストが出来ちまった訳だけどさー」
でっかい仕事、それはもちろんグランドクエストのことだ。
《ジッキョー》によりグランドクエスト開幕が宣言されて、一日がたった。
転生者たちはその後、このギルドで共に食事をし、盃を交わし合った。ディシーサムではお互いにガンを飛ばしあったり、この世界に来た時もトゲトゲしい雰囲気を出していたが、昨日のミホの演説、そして、強大なクエスト《グランドクエスト》が宣言されたことにより、一気に結束力を高めた。
「そのぅ、あれだよ。アンタらとパーティを組みたいのさ」
ニッポンファイターズが口を揃えて『パーティ?』と返した。
「パーティを組んでどうするんだ?」
いつの間にか絞技から解放されているカザミが聞き返す。
魔人ちゃんの絞技によりカザミの首元についたとても濃いアザを見てマイカは少し苦笑した。
「せっかくこの世界に来たんだ。パーティを組んで、クエストを遂行する──、些細な程度にはなると思うが、この世界での《冒険者》をやってみるってのも悪くはねえと思うぜ?」
マイカの発言に日本一同は静まり返り、顔を見合わせる。
そして、マイカが一つ咳払いをして発言を続ける。
「例の霧やモンスター、そいつらの調査は普通のクエストでも受けながらすればいい。そっちの方が楽しめそうじゃねえか?」
「思う」
カザミは即答だった。
そして、カザミに続いて他のメンバーも問いに返していく。
「悪くはないが、俺は霧の調査に集中したい。気が向けば俺もパーティに混じろう」
カウンターに腰掛けているオーガがドリンクを一口飲んだあとに返事を返す。
そして──、
「私もここで美味しいご飯食べてるよ」
ミホも返事を返す。すると、ミホはテーブルの骨つき肉にかぶり付く。その様子に皆は呆れたような表情を浮かべ、『昨日の威勢はどこにいったんだ……』と心の声をシンクロさせた。
マイカの誘いへの返事は、真桜とジジイも先のオーガと似通ったものだったため、マイカはため息混じりに答える。
「ち、仕方ねー。それじゃあ、お前ら二人はオーケーってことでいいか?」
「……私……返事……まだしてない」
魔人ちゃんが少し真剣味を帯びたような表情で言う。
「嫌なのかよ?」
魔人ちゃんの反抗的な態度にマイカも目を尖らせる。しかし、
「…………な訳ない」
魔人ちゃんは皮肉を帯びたような笑みを浮かべてマイカに手を差し出す。マイカも、魔人ちゃんの答えが初めから分かっていたかのような余裕の笑みを浮かべ、自分に伸ばされた手をぎゅっと掴む。
「てめぇ……ちょっと生意気だったんだな」
「……ふふ……わたし、強いから……」
パーティ結成の証は、二人の握手によって証明される。
しかし、この時結成されたパーティの人数は二人ではない。
「おい、魔人ちゃん! 握手は私の役目だろ!?」
結ばれた二つの手の上から、もう一つ手が添えられた。