第四十一話 『サタコの特訓!士郎覚醒?!(チート?)』
むかしむかし、遥か昔──。
とある世界に《探求者》が居た──。
探求者は《不思議な力》について研究をしていた。
不思議な力は世界に満ち溢れていた。
その力は炎を生み出し、そして、強い日差しに乾き切った荒野にオアシスを築き上げ、更には、雷鳴さえも呼び出すことが出来た。
しかし、その力を使うと疲弊してしまうのだ。
探求者は研究に研究を重ね、その謎を突き止めた。
自らの中に流れる《不思議な力》と《命》は繋がり、混じり合っていたのだ。
《命》とは本当の命ということではない。
《命》とは、様々な感情、欲望が入り混じった混沌のことだ。
探求者は、混じり合うことを《魔》と呼び、そして、自分の中に取り込む前の、この大気中、石や草、この大自然に流れる混じり気のない純粋な力、《不思議な力》のことを《澄力》と呼んだ。
"この繋がりを断ち切ってこそ、本来の純粋な力が呼び覚まされるのではないのか──"
さらにさらに研究を重ねた。
そして──、
それは成功した。
自らの中の澄力が流れる《器官》と、自らの命との繋がりを切ったのだ。
探求者は《断ち切りし力》を解き放ってみた──。
すると、どうだろう──。
海にほんの少し力を流し込むと水平線の彼方まで海は凍り、そして、指先から解き放った一粒の火の粉が、伝説に語り継がれる不死鳥のような生き物となって空を羽ばたいていった。
しかし、それは神の理に反していたことだった。
"これが、代償なのか──"
繋がりを切る──、それはあまりに危険で馬鹿げた行為だったのだ。
繋がりを切る──、ただそれだけのつもりの筈が、自らの命まで切ってしまっていたのだ。
そんな絶望に打ちひしがれる探求者の前に、一柱の神が舞い降りた。
"……ちょうどいい。最後に、この我を楽しませよ──"
探求者は神と戦った。
神の方も、強者との戦いに胸を躍らせ、楽しんでいた。
そして、決着が付いた。
"神よ──、強者との闘いを、ただ楽しんだ《闘神》よ。我はまた汝と闘いたい。だから、そなたをここに封印する"
なんと、勝利を手にしたのは探求者の方だった──。
そして、探求者は再び闘神と闘えることを願い、最後の力を解き放った──。
"いつか、いつかまた我はこの地に……てん……せい……を──"
闘神は待った。
何年も何百年も何千年も。
しかし、待てども待てども果たされることのない約束に、闘神は──、
怒りに包まれた。
怒りに包まれた闘神は、次第に闇へと堕ちていく──。
このお話はここで終わり。
そして、このお話が後世に語り継がれていくことは無かった。
しかし、世界のどこかに、人々に忘れ去られた本棚の書物には、こう書かれているという──。
『《命》と《澄力》が混じり合った不完全な力は《魔力》とし、魔力によって解き放たれる不完全な業を《魔法》と呼ぶこととする』
***
とある世界の、魔王城の庭にて──。
「じゃあ、早速始めたいと思うんだけど──」
士郎は魔王城で魔王見習いのサタコと出会い、魔法の特訓をすることとなった。
林之助は魔法を使えるが、士郎の隣でサタコの話を一緒に聞いている。サタコは杖を地に突き刺して、ローブのポッケの中をゴソゴソと手探りで漁っていく。
「まずは、これ。《魔食結晶》を手に取ってみて」
サタコから掌サイズの綺麗な結晶を渡される。
手のひらに乗った水晶玉のような物を見つめる士郎。だが、特に何が起きたって訳でもなく、水晶が微かに光っただけだ。
一方林之助の方を見てみると──、
「どうした、林之助?」
「あ……なんかフラフラしてきたっす……」
林之助は足元をふらつかせて地面に膝をついている。
「これは触れた者の魔力を吸収する玉だよ。基本的に人は魔力が無くなると、力が入らなくなるんだ」
「オレは特に何も感じないけど……」
「うん。君は今まで魔法とは縁の無い世界で過ごしてきたんだよね。だから、〈命〉と〈魔力器官〉が繋がってないんだよ」
「命? ……きかん……?」
*
それからしばらく、サタコが色々と説明してくれた。
林之助が倒れたのは魔力を吸われたから。どうやら、魔力を使うということは血を抜かれることとほぼ同じらしい。これは〈魔力器官〉と〈命〉が完全に繋がっているから、だそうだ。
「そう。〈命〉と繋がっているといっても、別に寿命が縮むとかそういうことはないし、本当に血が抜かれるということもない。〈命〉と繋がった〈魔力器官〉を使うたびに人は貧血のような状態に近くなっていく。林之助のようにしぼんだように力が抜けていくんだよ」
オレに何も異変が起きなかったのはそういうことらしい。〈命〉と〈魔力器官〉が繋がっていないから。魔法の無い世界で過ごしてきたオレにはそもそも魔力なんてものは必要なかった。だから器官が全く発達せずに、繋がることが無かったという。
対して、林之助。
林之助は魔法の世界で過ごしてきたため、魔法と触れ合うことも多々あったはずだ。
魔力に満ち溢れた世界で過ごすほど、〈魔力器官〉が成長していく。そして、〈命〉と繋がる。
「でも士郎、君は今、幾たびの転生者達との関わりを経て、そして、魔力の満ち溢れるこの世界に来て、君の器官は成長し、命と繋がろうとしている。だから、まずはそれを完全に断ち切っちゃうよ! 一瞬で終わるから我慢してね」
サタコは杖を振りかざし、地に突き刺す。すると、ぶつぶつ何かを言い始める。
そして、上空に翳した両手を士郎に掲げた。
「命! 魔! 断!」
「う、うわああああ!」
巨大な光が士郎を貫く。
光の柱の中にいる士郎の胸から魂のような光が外に出てくる。
「し、士郎ー!」
「よし、もう終わるよ!」
魂の様な光は不規則に形を変化させていく。
最終的に四角形なのか五角形なのかよく分からない形に光は変化して、士郎の中へと帰っていった。
「はぁ……はぁ……。何が起こったんだ?」
「君の器官を改造したんだ。これで君の命と器官は繋がることはないよ。つまり、いくら魔力を使ってもへばることは無い体になったんだ。そして、魔力本来の力を扱うことができる」
「で、でも、それはかなりのインターバルになるだろうけど、そんなに良いことなのか?」
「命と器官が繋がった状態で魔法を発動するのは枝分かれの迷路を解くようなものなんだよ。その理由はね、命と繋がっているから。色々混ざってしまっていて、発動するのに手間がかかるんだよ。それに、力が弱まってしまう」
「ふむふむ」
「でも今の君は、一本道の迷路を解くように魔法を発動できる。それも、混じり気のない純粋な魔力で。例えば、雲に遮られていると陽の光は通りにくいでしょ? でも、命と器官を完全に遮断すれば、雲に遮られることなく完全な陽の光を差し込ませることができる」
「それってチート? いや、さすがに違うか!? ……つまり要点をまとめて下さるかしら?」
「ちいと? が、何かはよく分からないけど、うん。この力は絶大なものだよ」
「う、羨ましいっす! オイラの繋がりも切ってほしいっす!」
「それがねー。完全に繋がった器官と命を引き剥がすのは自殺行為そのものなんだよ。昔、繋がりを切った人がいたんだけど、三日も経たずに死んでしまったんだよ」
「え!? や、やばいっすね……。やっぱ大丈夫っす」
そして特訓は次のステップへと進む。
「よし、じゃあ士郎。魔法を放ってみて」
「え? もうできるの? 魔法なんて何も覚えてないけど……」
「できるよ! 自分を信じて」
言われるがままに士郎は前方に両手を掲げる。
分からないなりに、念じてみた。すると──、
「え?」
ボゴオオン!
士郎の両手から、数センチほどの小さな火が出た。
その火は一直線に猛スピードで飛んで行き、城の壁に大きな穴を開けた。
「え、えええええ!?」
「ふふ、ね! 出たでしょ」
「おお、士郎。やったじゃねーっすかー!」
士郎は大歓喜を露わにした。
士郎は二人を巻き込んで、喜びの舞をした。
「「「チート! チート! チート! チート! チート!」」」
***
それから数時間、サタコの猛特訓により、そして、士郎の血に汗滲む努力により、士郎は新たな力を身につけた。
〈練り込み〉。消費魔力を著しく軽減させ、威力を更に上げる効果を持つ。
「はぁ……はぁ……はぁ……。ま、マジですげぇ。この短時間で、まさかこんなにも強くなれるなんて。さ、さすが、次期魔王様による特訓は凄まじいな」
「でしょ! じゃあ次は、実戦形式でいこうか!」
「え?」