第三十九話 『グランドクエスト』
「えー、転生者の皆様。ここにお集まりいただいたのは他でもない!」
《闘技場》から現れた王様のような身なりの男。
転生者たちが静まり返る中、男の演説が始まる。
「えーと、この度、転生者達による〈闘技大会〉を開催することとなった!
"でしょうねー"。
恐らくここにいる転生者達が心の声を合わせたはずだ。
しかし、中には「ええええー!?」と、お口あんぐりしている者も居た。
「──本当に全員揃ってるのかな? ちょっと待ってね……」
男はコートの中に手を突っ込みごそごそと手探っている。
そして、男はカチカチ君のような物を取り出した。
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ──。
虚無のような時間が過ぎていく。
この時間のお陰で新しい発見をした。
"スライド式"。という看板が《闘技場》のドアの横に立てられている。
「んん? んん!? 九九九七──。ありゃ、三人足りないな。まあまあまあまあ……。よし、転生者よ、聞けー!」
転生者は合計一万一人のはず。しかし、まだ足りていないようだ。風見達にはその原因がなんとなく分かっていた。
士郎と林之助がまだここに来ていないのかもしれない。
それに、エリスとセシリーはどこへ行ったのだろう?
風見は周囲を見渡すが、こんな大勢の中では居るのか居ないのかさえ分からない。
一先ず、男の言う言葉に耳を傾けようとすると、
「おい! それはちょっとおかしいと思うぜ」
隣にいる大剣を背負った女性がハスキーな声で叫んだ。
女性は黒く日に焼けたような肌をしており、大事な部分のみを隠すように布を巻いているだけのとてもクレイジーな装備だ。
「んん?! どういうことかね?」
「この世界に来たのは一万一人の筈だ。つまり、足りていないのは四人だろ」
「えー? そうなの? ……あ、なんか頭の中に流れ込んでくる。えーと、『一万と一! よろしく!』。……ふむふむ。なるほど、つまり四人は安否不明ということか。オッケー分かった! 話を進めよう」
相変わらずノリの軽い男は話を続行する。
「これからあなた方にはこの《闘技場》で対戦をして貰う! と言いたいとこなのだが……」
"……?"。
これから話が盛り上がっていくのであろうと思われたが、いきなり歯切れの悪い物言いの男に不満げな面持ちになる転生者達。
「突然の話ですまないのだが、この街の者達は現状にかなり困っていてね。ほら、この〈霧〉だよ。この〈霧〉はつい三ヶ月ほど前にいきなり現れてね。このアリーナには強い者たちが集まるため、この街付近には魔物が滅多に近づかないのだが、この〈霧〉が現れてからは非常に好戦的な魔物が増え出したのじゃ。そのせいで物資や食材の運搬や輸入がままならない……そこで!」
男は更に声を張り上げて言う。
「君たち転生者に、闘技大会の司会進行を務めさせていただくこのわたくし《ジッキョー》から直々の頼みだ! この〈霧〉の謎を解き明かし、荒ぶる魔物達を沈めてくれ! 闘技大会を開催するのはその後だ!」
「…………」
静まり返る転生者達。
元々静まり返っていたのだが、ジッキョーの発言にその静寂はより一層深まったように感じる。
司会の顔が不安と焦りにより出てきた塩水で満たされようとしていた。その時だった──、重力が何倍にも増したかのようなこの雰囲気の中を一人で前に歩いていく少女が現れる。
「うん! 私たちに任せて! この街の人たちの気持ち……私は分かるから……。私も元いた世界では商人をやってたから……。商品が人々に届かないのはつらいよね。苦しいよね。悔しいよね。だから……力になれるよう、私は頑張る!」
美保だった──。
いつもいつもデスオリではぐだっており、頭の中は飯のことしかないと思われていたあの美保が、この数多の強者達の先陣を切ったのだ。
その美保の背中には、ただ一片の震いも無かった。
弱そうで、小さい背中が、この一瞬で大いなる輝きを放っていた。
「…………」
だが、それは美保のみだったのだろうか?
辺りは依然として静寂だ。
しかし、次の瞬間、広場はビッグバンを巻き起こす。
「「「うおおおおおー!」」」
「こんの娘ー! よくぞ言ったー!」
「うふん。なかなかやるわね。顔は微妙だけど、心は強く逞しいわよ」
「俺が言おうとしてたのにー! きー! ムカつくー!」
この大歓声を受けてもジッキョーはまだ焦っていたのだろうか。
ジッキョーの顔は結局水浸しになっていた。
そんなジッキョーを見て、美保はニコッと微笑んだ。
「でもさー、この街には強いものが集まるんだろう? そいつらにお願いはできなかったのか?」
核心をついたような一言を先ほどのクレイジー装備の女が言う。
すると、ジッキョーは今日一の真剣な表情で言った。
「ああ、頼んださ。だが、ほとんどがコテンパンにやられて帰って来たんだ。問題はそこなんだ。活発化した魔物の中には凶悪性を宿し、更には強力な力を持つ者も混じっていたそうなんだ」
「……なるほどな。そこであたし達の力を借りるってことか」
「その通りだ。この問題を打破するには、数多の転生者がやってくるこの機会しかないと思ったんだ」
「……いいじゃねーか。おもしれー。こういうのを待ってたんだよあたしはー! そうだろ! てめぇらああ!」
「「「うおおおおお!」」」
「ちょっと! しれっと私から盛り上げ役を奪わないで!」
盛り上げ役を取られたと思った美保が飛び跳ね、喚いている。
「ふふ、何より面白いのはお前らだよ」
「「え?」」
クレイジー女が美保と風見を見やる。
「中々度胸あるじゃねえか。いきなり他種族のやつぶん殴ったり、あの重っ苦しい空気の中で平然と前に出たり、誰にでもできることじゃなねーよ」
「えへへ!」
「私はただ殴りたかったから殴っただけだ!」
「頭おかしいのか? へ、私は《マイカ》。鬼と人間の混血、《半鬼》だ」
「私はミホ! こっちはカザミだよ!」
「おい、自己紹介ぐらい自分でできるぞ。私はカザミだ」
数多の転生者が手を取り合い、肩を組んでいる。
胴上げをする者もいたし、立ちしょんしているやつもいたし、興奮しすぎたせいか、オ○ニーをしているやつが居たので、そいつをバットでぶっ飛ばす者も居た。
本当に色んな転生者達が居た。
闘技場で行われる闘技大会、その司会者はこの活気に溢れた広場を更に轟かせるため、再び大きく息を吸い込み叫ぶ──。
「それじゃあてめええらああ! 神が放ちしクエスト! その名も、えーと、えーと、えー、……『ミステリーミスト』を貼り付けたー! これを受ける者はいるかあああ!」
「「「うおおおおお!」」」
「よし、それじゃあ……」
再び沈黙が訪れる。
しかし、この沈黙は更に高く飛ぶためのバネだ。
そして、最大限に押し込まれたバネは今、解放される。
「《グランドクエスト!》 開幕だー!」
「「「うおおおおおっほっおほ! おほっ! ぐえ、うえぇぇ……」」」
中途半端な大声が飛び交っている。
「ん? どうした魔王。なにか気になるのか?」
ふと真桜が視界に入り、訪ねるカザミ。
真桜は下を向いて考え事をしているようだった。
「ふむふむ。いや、なんでもない」
「──?」
そう言ってカザミと真桜は、しゃがれ声が飛び交う空間へと歩いていく。
「(何か……下に何か眠っておるな)」
ただ、真桜は何かの予兆を感じ取っていた──。
僕自身、小説を書くのも、物語を考えるのも初めての超ど素人なもので、"何を書いてんねんコイツ"と思われる方が多々いらっしゃると思いますが、宜しければ──、
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