第四話
「はーい、それでは皆さんお疲れ様でしたー! 反省文を後ろから集めてきてくださーい。」
ヨーコ先生が戻り、ようやく今日の補習が終わりを迎えた。
「ヨーコ先生おかえり〜。おっぱぼふぉ!」
「セクハラ野郎は成敗よ!」
西岡がヨーコ先生へのセクハラ発言を達成するまでに、吉田の鉄拳が西岡の右頬にクレーターを作り出す。
「はいはーい静かに静かに〜。今から補習の日程のプリントをお渡しします。しっかり予定を確認してこれからもちゃんと補習を忘れずにお願いしますね」
くそぅ、今日で終わりじゃないのか。分かっていたことだが、両方の拳で軽めに机を叩いて悔しそうな反応をするオレに。
「補習とかペン回しにばっか気を取られてないで、ちゃんと夏休みの宿題もやりなよ」
「お、おう。あ、当たり前よ」
隣の席の男子がまたしても注意を促してくる。
‥‥‥ペン回しに気を取られていたのはお前の方だろう!
と、さすがにツッコミたくなったが補習で疲れていたので敢えて黙っておく。
ガタン。
学校からの帰り道、少し喉が渇いたオレは自動販売機でミネラルウォーターを購入し。
「ぷはー。生き返るわー」
三、四くちほど飲み、口元を拭っていると。
「ちょ」
という声が聞こえた気がして後ろを振り向くが。
「気のせいか」
特に何もなく、帰路を行こうとすると。
「あ、すいません。そこの方ちょっとストップ」
「へ?」
謎の声の言う通りにオレは立ち止まる。次の瞬間、なんと。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
‥‥‥‥‥‥信じられるだろうかーー。
少女がオレの目の前に舞い降りてきたのだ。
いくつもの布生地をパラシュート代わりにしてスーっと地面に着地する。数テンポ置いてパラシュートがパサっパサっと地面に崩れる。
「よいしょー。ごめんね。危うくあなたのことを踏みそうになるところだったから」
「‥‥‥」
あまりの衝撃にオレは金縛りにあったかのように身動きができず、声さえも発することができなかった。
「おーい、フリーズしてるよー」
呆気にとられているオレに声をかける少女は淡いピンクのセミロングの髪をツインテールに束ねており、ふりふりしたシャツに膝丈ほどのズボンという服装をしている。歳はオレとあんまり変わらないだろうか。
「‥‥‥は! あ、えーと」
「大丈夫? めちゃくちゃポカーンとしてたよ」
そう言いながらオレの顔を少し心配そうに覗き込んでくる少女。一目見た時に思ったが結構可愛い顔をしている。それに改めて見てみると悪くないスタイルだ。身長はオレの胸あたりまである。その少女の欲張りすぎず足らなさ過ぎない胸がオレの体をかすめそうだ。照れ臭くなって思わず目を別の方向に向けてしまう。
「あ、あぁ。全然大丈夫。少しぼーっとしてたよ。ところで君は一体ーー」
ドスンっ!。
少女に聞こうとしたところでオレの背後で何かの音が響き渡る。
「「ん?」」
オレと少女が同時に音の方を向くと。
「‥‥‥」
見知らぬ男が無言でこちらをじっと見ていた。
「し、知ってる人?」
少女に聞いてみるが。
「いや、知らないよ」
という答えが返ってくるだけだった。
「‥‥‥」
男は変わらず無言で、こちらをじっと見ている。すると、オレの隣で。
「ぶふぉ!」
男の現在置かれている状況にツボったのか、少女がいきなり吹き出した。
「ってゆーか、あの人足が地面に突き刺さってるー! ぶふぅ! う、受け、ぶふぉ! 受けるー、ぶふぉ!」
少女が男の方を指差しながら時折上を向いて吹き出している。見ると男の足の付け根ほどまでが地面に突き刺さってしまっている。すると。
「ほ! ほ! ほ! ほ! ほー!」
男がいきなり動きはじめた。地面から抜け出そうとしているのか、両手を地面について体を押し上げようとするが・・・。
「ふぅんぬっ! ぬっ! ぬっ! ぬ! ぬ‥‥‥ぐす‥‥‥うぇん‥‥‥抜けないよぉ‥‥‥」
「‥‥‥」
中々抜け出せないらしい男が少し半泣き状態になってしまっている。
「ぎゃっはははははは!! あんなに抗っておいてちっとも抜け出せてないんですけどーー! クセ強すぎ〜! ぎゃっははははは、ふい! ふい! ふい!」
(その笑い方も十分クセが強いと思うが‥‥‥)
少女のそのバカみたいな笑い方にオレは少し幻滅してしまう。そして。
「う、そこの娘笑うんじゃない! くっ、ちょ‥‥‥あの‥‥‥ま、マジで抜けん」
マジで抜け出せないらしい男を見てオレは。
「なぁ、オレたちで抜け出すのを手伝ってやらないか?」
隣でバカ笑いを続ける少女に提案してみる。
「ぎゃははは‥‥‥は‥‥‥ぶふぅ。ふ、ふぅ。ぶふぅ‥‥‥そ、そうね。もっと見てたかったけどずっとあの状態にしておくのはかわいそうだもんね。‥‥‥ぶふぅ!」
最後に二、三回ほど吹きだしてオレの提案を受け入れる少女。そして。
「ふぅ。さ、早く引っ張りあげてあげましょう」
と言い、鼻歌を響かせながら男の方に向かって歩いていく。
(なんかおかしな展開になってきたなぁ‥‥‥)
そう思いながら地面と一体化している男の方へと足を歩ませていくのだった。