第三十二話
「わぁ、人がたくさんいるよー! 《ウィリー》を思い出すなー」
とある日の夕方、士郎達は祭りへと赴いていた。ウィリーというのは美保の元いた世界に在る国の名前だ。
「カザミよ」
「わかっている」
「「勝負だー!」」
風見と真桜は一目散に射的へと向かっていった。
「私もやるぅ!」
「おいおい、あんまりはしゃぎすぎるなよー」
「士郎も早く来なよー」
「・・・・・・お、おう」
純粋な眼差しでオレを見る美保の目は、本当に楽しそうで、可愛らしい。そして、射的を命中させ、指でグッドマークを作ってドヤ顔をオレへと向ける風見。真桜は・・・・・・、射的をするには少し身長が足りなかったため、風見が真桜の首を掴み持ち上げる。
「ぐわぁ! 外したー!」
「はっはっはっは。やっぱりお前は雑魚だ。士郎、次はお前だぞ」
「おう! 見とけ!」
士郎は獲物に狙いを定め、引き金を引く。
「あ、外した」
「ど変態魔神よ。我輩よりも簡単そうな物を狙っておいて外すとはなんじゃ。」
「魔王、士郎は射的よりも射精が得意なんだ」
「おいお前ら。そんなにオレのこと馬鹿にして楽しいか? って美保のやつはどこにいった?」
「やっぱ祭りといえば焼きそばだよねー」
美保が両手に大量の焼きそばを乗っけて帰ってくる。
「おい、お前またお腹に炊飯器を詰まらすつもりか」
「いいもん。皆で食べよう」
*
士郎達が芝生に腰を掛けて焼きそばを食べていると、思わぬ人物達に遭遇する。
「あら、偶然デスわね」
「あ、エリスにセシリーじゃねえか」
「こんばんわ。士郎さん達もお祭りに来てたのね」
「あぁ。ーーエリスのその満面の笑み。パチンコで大勝ちでもしたのか?」
エリスはシスターだが、根っからのパチンカスだ。この世界にきて初めてのお金の使い道がパチンコだったのだ。
「ザッツライトデスわ! 神台に巡り合わせてくれたお星様に感謝デスわ!」
「エリス、まーたそんなことにお金を使って! 駄目じゃないの。何度言ったら分かるの? 今は馬の時代よ! 馬!」
「馬って・・・・・・、セシリー競馬でもやってたのか?」
「そうデスわ! こちらのエルフは<逆馬プロ>デスのよ! さっき五万ぐらい負けて藁人形を打ち付けてたのデス」
「確かに負けたわ。でも、楽しかったから実質勝ちよ!」
馬とかパチスロは高校生のオレにはまだよく分からない話だが、二人はいつも一緒で、本当にかけがえのない者同士なのだ。
「セシリー、それはギャンブル依存症予備軍なのデス」
「どうでもいいのよそんなこと。あなたこそ、大勝ちしたとか言っていたけど、実際の結果は?」
「聞いて驚くなデス。実践機種《CR・建築士のゴンちゃん超速》。その名の通りめちゃくちゃ出玉スピードが速いのデス。二十分で二万発でたのデス。投資が一万だから、六万五千円プラスデスわ!」
「ぐ、確かに相当プラス域ね。ーーやるじゃないの。でもね、エリス。これは乗り打ちよ。半分よこしなさい」
「ちょ、いやデスの! 離しなさい! ぽ、ポリス、ポリスメーン!」
エリスとセシリーのやりとりを見守っていると、どこからともなく『ヒューン』という耳から心臓へと届くような音が町全体に響き渡る。
「あ、見て皆!」
炊飯器を詰まらせているようなお腹をした美保が夜空を指差す。
ドッゴーン!
「綺麗じゃのー」
「魔王のくせに花火で余韻に浸るな! 気色悪い!」
「なんじゃと!」
「失礼」
「「・・・・・・え!?」」
風見と真桜の隣に青天の霹靂の如くジジイが出現する。いや、ジジイだけじゃない。オーガや、最近転生してきたゴブリンや魔人も士郎達に混ざって花火を見ている。
「まぁ、今はーー」
この同じ夜空の下で、大きな音を響き渡らせているこの夜空を、今はただ、見上げていたーーー。
〜始まりの夏休み編〜 完
次回<第六章>
物語は新たな局面を迎えます。




