第二十二話
ふと改めて思ったんだが、あそこの謎の地下施設で会長と弥生とやらは一体何をしているのだろうか。
「(ちょ、ちょっと行ってみようかな・・・。なんか地下の方が気になるわ)」
と、オレが忍足で地下へと向かおうとした瞬間に。
「とおーう!」
「ぐぼへぁぁ!」
カザミのドロップキックがジジイの顔面へと炸裂する。
「お、お主。疲弊しているはずでは・・・?」
ぶっ倒れたジジイは涙目になり、血を噴き出してる鼻を押さえながら目の前の鬼畜巨乳に問いかける。
「私は・・・私は・・・」
カザミは俯きながら握った拳をブルブルと振るわせる。
「『私は』、ぐふ。な、なんだと言うのじゃ? う、鼻血が・・・」
「私は・・・、体力バカだああああああ!」
カザミは両腕を天に突き出し、街中に響かせるほどの轟音を解き放つ。
「な、なんじゃとー! ・・・って、いやいや、意味が分からんわ!」
オレは二人の転生者の戦いを尻目にこっそりと地下の扉へと足を運ばせる。
「『癒し』」
ジジイは詠唱の言葉からしておそらく回復系であろう魔法を発動させる。すると、見る見るジジイの鼻血が治まっていき、赤くなっていた鼻の先端が肌色を取り戻していく。てゆーか、またそのまんまのネーミングじゃねーか。転生者は皆、日本語が好きなのだろうか、あるいは転生の際に本来の名前を置いてきてしまったのか。・・・どうでもいいわ!
「・・・回復魔法か」
「ふぅ。ったく、こっちは老いぼれじゃぞ。手加減せんかい」
「悪いな。私の辞書に加減という文字は無い」
「ふざけるでない!」
少しカチンと来そうなジジイはそう言うと杖を地面に一突きする。すると、再びカザミの足元から根っこが顔を出し、一目散にカザミに襲い掛かる。
「カザミよ、避けろ避けろ〜」
宙ぶらりんロリ魔王がカザミに茶々を入れる。先程から魔王は褌丸出しで根っこに抗う訳でも、乱れた衣服を直そうとする訳でもなく、ただジジイとカザミの戦を観戦している。
「おいロリ魔王。ーーお前に『クソ雑魚ガラクタ魔王』の勲章を・・・くれてやるぅぅぅ!」
カザミは役に立たない魔王への怒りを拳に乗せて、襲いくる根っこを全て嵐のような勢いで殴り倒して行く。オレはと言うと、忍足で地下へと足を運ばせて行く。
「(よしよし。ようやく着いた)」
オレはようやく地下の扉に辿り着き、扉を開けようとーー、あれ? 扉はどこだ? ・・・うん。無いな。よし、諦めよう。オレはしゃがんで扉があった所に耳を近づけると、下から工事をしているような音が聞こえて来る。ーーあー、めちゃくちゃ気になるわー。そんなことを思いつつ、すぐそこの転生者達の戦いを見やる。
「せぇーい!」
「ほいほいほいほい」
戦況は現在ジジイに分が有るように見える。カザミは根っこを殴り倒して行き、時折ジジイにパンチやら蹴りやらを仕掛けているがことごとく杖で弾かれ、諸に入ったと見えた攻撃も全てギリギリのところで身軽に躱されていく。
「それにしても凄まじい揺れ具合だ」
カザミのオッパイを見て、オレは無意識にそんなことをポツリと呟いていた。
「ーーぁぁぁぁ」
「ーーん? なんだ?」
カザミのオッパイに夢中になっていると、どこからともなく声が聞こえ、微かに地面が振動している。会長達がこの真下で行なっている怪しげな研究によるものだろうか? いやしかし、この心地よく感じると同時に恐怖が湧き上がって来るような、この感じ・・・、さっきの補習のときも、いや、昨日もあったようなーー。
そうだーー、オレは、オレは知っている。
「ーーぁぁあぎいいいやああああああ!」
やああああっぱりそうかああああ!
「待ておらああああ! こんのピンク頭ー! 昨日はよくもやってくれやがったなああ!」
例によってミホのやつがオーガに追いかけられている。ーーって、おいおい。
「こーっちに来んなああああああ!」
これはお約束だと勘違いをしているアホが暴君と一緒に仲良くオレの方へと駆け寄って来る。
「「な・・・なんだ?」」
ジジイとカザミはいきなり現れた招かざる客に唖然としている。
「てんめぇ、ミホ。空気読め! 今めちゃくちゃ転生物っぽい雰囲気だったんだぞ!」
「知らないよそんなの」
オレとミホは笹谷公園を全力で走り回りオーガから逃げ回っている。
「くっそぉ! おいミホ、焦げパンでなんとかしろよ」
「むーりー。疲れちゃったー」
「ぐおらー! クソガキども待てやー! ぶん殴らせろー!」
あー、まじでこの転生者どもまじでしんどすぎる。だんだん横腹が痛くなってきた。横腹の苦痛にオレは半ば下を向きながら走っているとーー。
「やかましい! あっち行かんかい!」
「あ、やべ。って、うわ!」
その声にオレは前を向くと、先にはジジイが立っている。そのジジイが杖を一振りし、ジジイの前方の何もない空間から出現したロープのような物がオレの方へと飛んでくる。しかし、オレは咄嗟にしゃがんで躱す。
「うぎゃっ!」
ミホは足元の小石につまづいて半ば転けるようにして間一髪ロープを躱す。
「おらー! 待てやーー、ってうぉ!」
オレとミホを追いかけていた暴君は何も反応できずにロープを食らう。
「ぐぉぉああ!?」
魔法のロープは見る見る広がり伸びていき、オーガを蝕んでいく。ほんの極数秒後、オーガはロープにより拘束され、ミノムシのような形になり地面に倒れる。
「ぐがあああ! ちくしょう、てめーらまたしてもやりやがったなぁ!」
「いや違います。僕たちじゃありません」
「オーガくん。君が勝手に寝転んじゃっただけでしょ?」
「ぷっ! おい・・・ミホ・・・、お前こんなときに笑わせんじゃねーよ。ぷっ、くく、ふふ・・・」
「「あははははははは!」」
オレとミホの馬鹿笑い加減にオーガは怒りを通り越して呆れた表情をほんの少しの間浮かべる。しかし、再び眉間に凄まじい谷を作り、いつものように怒り狂った形相になる。
「ちくしょうやっぱりムカつくぞぅ! ぶん殴ってやる!」
「はいこれあげる」
ミホが焦げパンを錬成して大きく空いたオーガの口の中に優しくそっと添える。
「あがああああ! ーーあ、あ。・・・・・・」
「南無三・・・」
目の前にいる暴君にとっての最大の弱点、それはオレの横にいるサイコパスピンク頭ーー、
「うふふ」
泡を噴き出し白眼を向いたオーガを笑いながら見物しているミホ・・・、が作り出す焦げパンだ。
「よし。ーーあ、じゃあ僕はこれにて失礼します」
「あ、士郎待ってよー」
寝静まったオーガを確認してオレはそそくさと早足で帰路を行く。ミホもオレの後に付いてくる。・・・もうこれ以上の面倒ごとはごめんだ。
「・・・・・・」
オレは最後に宙ぶらりんの幼女と、カザミを一瞥しその場から去って行く。しかし、
「ーー?」
最後にカザミのオッパイを拝みたかっただけなのだが、その際にうっかりカザミと目が合ってしまう。
「士郎。なにしてるのよ、早く帰るよ」
「お、おう。わりぃわりぃ」
ミホに呼びかけられ、今度こそその場を後にする。