第二十話
「これは一体どうなってるんですかー!」
地下室の惨状を見た会長が奇声を上げている。
「・・・ジジイ、謝っといたほうがいいんじゃねえの」
オレはさっさと家に帰ろうとしたのだが会長に無理やり手を引っ張られ、またしても地下へと戻ってきてしまった。
「え、あ、わ、悪かったの・・・」
「変な落書きが書いてあるわ、倒れてる人たちがいるわ、中には私たちと同じ学校の生徒もいるじゃないですか。そこの爺さーー、・・・ジジイ! そこの人たちに何をしたの? あなたの目的は何? そもそもここをどうやって見つけたの? そしてーー」
ジジイをまくし立てた後、会長がオレを見やる。
「あなたもですよ。どうしてここにいるのですか!?」
「いや、オレはそこのジジイにいきなり拉致られてーー」
オレが言葉を喋りきる前に会長が再びジジイの方へと顔の向きを変えて言う。
「なんですって! こんの・・・、ジジイ! あなたみたいな人間が私のこの神聖なる研究施設に居ていいはずがないのよ。今すぐ出ていきなさーい!」
研究? 見たところ何もない殺風景なところだけど、一体なんの研究をしているのだろうか。
「わ、分かったわい・・・」
ジジイは俯きながらトボトボと歩いていく。
「・・・・・・」
会長が辺りの状況を見る。するとーー。
「ちょっと待ちなさいジジイ。本当にここで一体何をしていたというのですか!」
歩いていくジジイを引き留める。
「いや、あの、とある魔法を探求していての。そのための研究をしていたのじゃ」
「な、魔法ーー!?」
ジジイの言葉を聞いた会長から何やら凄まじい熱気のようなものを感じる。「魔ああああ力を感じるうう」と奇声を上げていた会長だけど、やっぱりこのジジイの話には興味があるのだろうか。
「ーーふざけるのも大概にしなさーい! そんなものこの世にあるわけないでしょうがー!」
いや、信じてないのかよ。
「むっきー! さっきから聞いていればこの小娘は・・・」
「ーー!? 会長、やべーー」
ジジイの眉間に皺が寄るのを見て取ったオレは会長の前に立つ。
「く、まあ良い。魔力を無駄にはできんからな。・・・しかし、そこの娘よ。おぬしは中々鋭い感を持っておるのう」
「え・・・?」
最後に意味深なことを言ってジジイは地下から出て行こうとーー。
「誰ですかこのおじいーー、ジジイは」
したのを新たな参入者によって阻まれる。
「あ、弥生ーー」
階段の上に立っていたのは先程の補習の時に会長といた女子生徒だった。
「ちょっと、どいてもらえますか」
弥生はジジイをかわしてカツンカツンと階段を下りてくる。弥生とすれ違った際に横にのけぞったジジイは腰を痛めたのか、「あいたたた」と、嘆声を上げて震えながら階段を上ってゆく。
「さ、会長。変な人たちと戯れてないで開発の続きをしますよ」
変なひとたち? それはオレとジジイのことなのだろうか? なんつー失礼な奴だ!
「おい、弥生とやら」
オレが弥生とやらに一言添えてやろうと声を掛けると、弥生はオレを一瞥し、すぐにプイっとそっぽを向いて会長の手を引っ張り壁へと近づいて行く。
「(あら、無視ですか)」
「ちょー、弥生、そんなに引っ張らないでぇ」
壁に到達した弥生は壁に手を添える。すると、手が添えられた部分の壁が『ガコ!』という音を鳴らしてへこむ。そして、へこんだ壁がそのまま横にスライドする。・・・めっちゃすごい! まさかそんな所に隠し通路があったなんて。
「な、なぁ。オレも行っていいか?」
「ダメです」
オレの懇願を円滑に拒否して、弥生と会長はツカツカと開いた扉を潜ると、扉は無慈悲にも閉まっていった。
「・・・・・・一体、中で何をしているのだろう」
ポツリと呟いた後、オレは振り返り階段へと歩いて行く。階段を登っていると後ろの壁の向こうから『ガチャン! チキーン! ガガガガガガ!』という爆音がオレを振動させる。
「本当に一体、何をしているのだろう」
気になりながらも階段を登り切る。
「・・・・・・」
オレは現在ポーカーフェイスだ。だが、内心は少し焦りを感じている。ーーなぜなら今、目の前に先程のジジイと今朝すれ違った女の子二人が視線をぶつけ合っているからだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
双方はお互いに動かないまま様子を伺っている。
「(・・・おいおい、こんなところで火花を撒き散らすなってんだ)」
ここで、ようやくジジイの方が動き出す。
「そこの小娘よ」
「「わたしか?」」
ジジイの問いかけに二人が反応する。
「・・・そこの腕を負傷している方じゃ」
ジジイは金髪巨乳美少女の方じゃなく、幼い少女を指差しながら言う。
「我輩に何か用か?」
幼女は顔色を変えずに答える。まさかとは思うが、ジジイの野郎、あんな幼い女の子にまで手を出すつもりか?
「お主、この世界にしては珍しい、なかなか素晴らしい量の魔力を持っておるな・・・、その魔力頂く!」
やっぱりかー! あんな幼子にまで手を出したらお終いだぜ! ジジイは地面を蹴り一直線に腕を怪我している少女へと駆け寄る。
「娘よ、悪く思うな」
少女とジジイの距離は瞬く間に縮んでゆく。
「ふん、そんなもん軽く躱せーー」
「あぶない魔王!」
「ぶふぉ!」
幼女がジジイの襲撃を躱そうとしたところで金髪美女が幼女の頬を殴ってぶっ飛ばす。
「こんのぅ、カザミめ! 安定の暴走筋肉具合じゃな」
「え、あ、だ、大丈夫?」
見かねたジジイが魔王と呼ばれる少女に心配の声を上げる。
「くそ、まさかこの我輩がジジイの力を借りることになるとは」
ジジイが魔王の手を取って起き上がらせる。
「ジジイ、悪いの」
「い、いや全然・・・。ーー君! こんな幼子をぶん殴るなんて正気か!?」
いや、襲おうとしたお前が言うなよ。・・・というオレの心の中の言葉をーー
「いや、襲おうとしたお前がいうなよ」
カザミ? と呼ばれていた少女が寸分違わずにジジイに言い放つ。
「わしは襲おうとしていたのではない。この幼子の魔力を分けてもらおうとしていただけじゃ」
ジジイが持ち前のあごひげをさすりながら言うと周囲を見回す。ジジイは足元に落ちていた木の枝を拾って地面に怪しげな何かを描いた。ーーさっき地下室で見た五芒星だ。
「ちょっと君。この中に入りなさい」
「いいだろう」
ジジイの誘いを一寸も疑うことなく従う魔王。カザミの「おい、やめとけ」という制止を聞かずに魔王はぼーっとした顔で五芒星の中に入る。
「かかったなぁ!」
「!?」
刹那、ジジイの表情が一変し、五芒星が青く輝き魔王の周囲を電撃がほとばしる。
「ぐ、おぅおぅおぅおぅお!?」
魔王はマッサージチェアを使用しているかのように振動している。
「す、すごいぞーう! すごい魔力量だ。ち、力が。力があふれてくる」
魔王の周囲の電撃がジジイへと引き寄せられてゆく。ジジイ両手を上に掲げ、歓喜に溢れている。ーーおいおい、このままじゃとんでもないことになっちまうんじゃねーか!
・・・一体、一体どうなっちまうてんだ!?