第十九話
「ーー・・・ん」
オレは見知らぬ部屋で目を覚ます。
「ここは・・・、って、へ?」
ぼやける視界を見渡すと知らない男の人や女の人が五人ほど間抜けなポーズで倒れている。中にはオレと同じ制服を着た学生もいる。さらに見渡すと、この部屋は全面が鉄のタイルでできている。ここは地下なのだろうか。壁側の中央には何やら上へと続く階段が設けられている。さらに、下をよく見てみると五芒星のようなものが描かれている。
「ほーう、目覚めよったか」
「あ、お前は!?」
部屋の隅で先程のローブのジジイが椅子に腰掛けている。
「お前、転生者だな」
「ほう! そんなことまで知っておるのか。そうかお主もそうなんじゃな」
「いや、オレは元々この世界の人間だ。ちょっとーー、昨日散々な目にあったもんでな」
「ふむ、まあなんでも良い。・・・しかし、なんとまあーー、この世界の魔力は本当に心許ないのう」
ジジイは椅子から立ち上がり、オレの数歩先へと歩み寄ってくる。すると手のひらをオレの方に向けると、タイルに描かれた五芒星が青白い光を帯びて一際強く輝き出す。
「な、なんだ?!」
ほんの一瞬だった。光は次第に薄れていく。オレは自分の体を確認するが特に変わった様子は無かった。ジジイはオレへと掲げた自分の手のひらを見つめるとため息をついた。
「何をした?」
「『魔力吸収』。やはり駄目じゃな。この町に魔力が宿ったのはつい昨日だったからのう・・・。それまでは魔法という概念すら無かったということ。だから当たり前ではあるがこの町の人間の魔力はまるで皆無。それどころか魔力に気付いてもおらん様子じゃーー・・・」
ジジイが独り言を延々と呟き続けている。魔力吸収? そのまんまの名前じゃねーか。魔法だかなんだか知らねーが、もう少し名前を考えろよ。
「・・・・・・」
オレは五芒星をじっと見つめる。よく見てみると白いチョークか何かで書いたのだろうか、ところどころに極小の粒が点々と広がっている。
「オラあ! オラあ!」
「ちょ、何してるのやめてえええ!」
おそらくこの五芒星の中にいる者の魔力しか吸収できないのだろうと考えたオレは間髪入れずに五芒星を何度も踏みつける。ジジイがいきなり焦りの表情を浮かべてオレの腕を抑えるが、魔法は使えないが若さだけならまだまだ現役のこのオレの力には到底太刀打ちできない。
「ちょ、本当にやめて、この五芒星の中に居る者の魔力しか吸収できないんじゃああああ!」
えへへへ。そうなんだ。オレはすがるジジイの心をえぐるように五芒星の白い線を擦りまくる。そこの人たちが間抜けな格好で倒れているのは恐らくこの線に触れないようにした為だろう。
「てめーは絶対許さねえ。オレのお楽しみの邪魔をしたんだからなー!」
「本当にごめんなさいごめんなさい。もしかしたら物凄い量の潜在魔力を秘めた人間がいるかもしれないと思って犯行に及んだ次第ですううう」
「いるわけねーだろ! 大体、なんでそんなに魔力を求めるんだよ。この町にも魔力は流れてるんだろ。こんな回りくどいやり方しなくても魔法使いはみんな息をするように体内に取り込めるんじゃないのか?」
オレがそんなことを言うとジジイはオレの腕を解いて、「うぉっほん」と一つ咳払いを入れて答える。
「良いか小僧。魔力を力とするのはそれほど甘くはないのじゃ。例えばこのスマホ。このスマホのバッテリーが無くなるとしよう。振ったり念じたりしてバッテリーを補充するか? そんなこと気休めにもならないだろう。ちゃんと充電器を差し込んでエネルギーを補充するじゃろう。そんな感じ」
「・・・へ?」
「魔力も一緒じゃ。大気中の魔力を吸収した石、葉っぱ、水、などなど、この大自然にこそ魔力は宿っておるものじゃ。それらを入手し、この五芒星に入れる。そして、『魔力吸収』をして魔力を補充すると言うわけじゃ。まあ、あくまでワシのいた世界での話じゃが・・・」
スマホなんか使っちゃって、とても馴染んでるようで何よりです。いや、そこにも驚きだがーー、ミホだ。ミホは昨日なんの工程も挟まず魔力を得ていたよな・・・。実は結構すごいやつだったりするのだろうか? ・・・続けてジジイがしゃべる。
「今回は人間を使ったが、やはり駄目じゃな。この世界に初めて来た時に石や水、葉っぱなどでも試してみたが、ま、結果は言わずもがなじゃな」
「無駄だったと。何はともあれ、もうこれ以上人を巻き込むんじゃねーぞ」
オレは鞄を肩にかけて上へと続く階段へ歩いてゆく。これ以上の面倒ごとはごめんだ。するとオレは割と重要な問題を思い出してジジイに問いかける。
「そういえばここどこ?」
「あ、《笹谷公園》の地下です」
「マジか」
笹谷公園はオレの家から徒歩十分ほど歩いたところに位置している。まさかこの公園にこんな地下施設があったとは・・・、なんだかこの町の闇を覗いてしまったような気分だ。
ガチャ、ギイイイ。
オレは階段を登り、上にある扉を開けるとーー。
「魔ああああああ力を感じるうううう!」
「・・・・・・・・・」
・・・我が校の生徒会長が立っていたーー。