第十六話
皆さんの好きなカップサイズは?
「・・・・・・」
オレは目が覚めると窓から差し込む陽光に目を少し覆う。なんと、なんと気持ちの良い朝日なんだ。まるで、ーー昨日の出来事が嘘のようだ。オレは起き上がり朝食やら例の補修の支度やらで下へ降りに階段を下っていく。そして、リビングのドアを開けるとーー。
「あ、おはよう士郎」
例のピンク頭がポテチをポリポリと頬張りながらお出迎えだ。こいつ・・・、ソファで腕組みながら寝転びやがって! 住まわせてやってるというのをわかっているのか! すっかりくつろいでやがる。昨日の出来事ーー、オーガの襲来の後、行くあてがないミホを取り敢えず家で住まわせるなんてことになってしまった。オレは一人っ子で両親は出張やら旅行やらでほとんど家にいない。帰ってきたらなんて説明したらいいんだ・・・。
「おはよう」
リビングのドアの前で一言挨拶だけ済ませて歯を磨きに洗面所へ行く。歯を磨き顔を洗い鏡を見つめる。
「・・・・・・・・・」
ふと昨日の夜の事を思い出す。アイツーー、ミホは頭のおかしい中二病だが見てくれは悪くない。顔は可愛い、スタイルも十分だ。そんな女の子と一つ屋根の下で二人きりで何事もないなど純粋な男子高校生のオレには不可能だ。だから、寝る前にちょっかいをかけにーー、というかオレの童貞を授けようとしたのだが「ちょ、やめて普通にキモい。調子に乗らないで。死んでどこかへ転生して下さい」と言い放ちオレの鳩尾に思いっきりキックをぶち込んで来やがった。あぁ、なんか急に涙が・・・、オレの人生初めてのお誘いだったのに。あんな風に拒否られるなんて。
「ふざけんなよ!」
鏡に写る自分に悲しみのこもった弱々しい怒りをぶつけると再びリビングへ。
『いっちにーさーんしーみーんなでたーいそうー!』
くそ、この中二病。なんか、なんかもう普通に馴染んでる。大変健康的な生活をしていらっしゃる。ミホはテレビの中のお兄さんに合わせて体操をしている。
「・・・・・・」
オレはそんなミホに特に何を言うこともなく無言で台所へ行き朝食の準備に取り掛かる。向こうでストレッチをしている中二病はもう飽きたのか、「あー、平和だねぇ」とか言ってソファに座り込む。
「士郎ぉ、何作ってんのぉ?」
「何作ってんのぉ?」じゃねぇよ。あなたも手伝いなさいと心の中で思いつつ。
「普通に食パン焼くだけだけど」
「私いちごジャムぅ」
「わかったわかった」
焼いた二枚の食パンの内の一つにいちごジャム、もう一つにバターをぬる。食器棚からコップを二つ取り出して両方に牛乳を注ぐ。
「ほら、できたぞ」
「ちょ、なんで牛乳なのよ。オレンジジュースが良かったんだけど」
いやいや、オレンジジュースは昨日の夜お前が全部飲み干しただろうが!
「あ、ていうかミホ。またポーションを錬成してくれよ」
「ちょっと私の神聖なるポーションを何に使うって言うの」
実はミホの錬金術はただのゴミ製造機ではなかったのだ。オーガ襲来の後にまたもや錬成を始めたミホをオレはなんでまたゴミをーー、っていうか焦げパンの錬成を始めたのか怪訝そうに見ていると出てきたのは焦げパンじゃなくて透明な水の入った一つの小瓶だった。何やらこいつはポーションだけは一流に錬成できるのだ。それを飲んだミホは傷が見る見る癒えていく。それをオレにも錬成してもらって飲んでみたのだが傷が癒えたのは勿論のこと、なんと疲れも吹き飛んだではないか。しかも、それだけじゃ飽き足らず味もなかなかのものだ。ほんのり甘く、そして、炭酸が程よく強くてとても爽快で気持ちの良い気分にもなるのだ。
「やっぱり朝はさっぱりしたいじゃないか」
「いやだよぉ。魔力がもったいないよ。エナドリでも飲んで!」
「まぁ、そりゃそうか」
少し残念がりながらコップの牛乳をグイッと飲み干す。そして、チラッとテレビを見ると気になるニュースが流れる。
『続いてのニュースです。昨晩、枚方市の長尾にある岩公園で激しい爆発があった模様です』
長尾って・・・ここじゃねーか! 岩公園で爆発? ・・・オレはふとミホの方を振り向く。別にこの中二病が犯人だと言いたい訳ではない。何故なら昨日の夕方頃からずっと家にいたからだ。それにミホに爆発を起こすような魔法やら何やらといった力はないだろう。ただ、ふと頭の中をよぎることがある。昨日のオーガといいミホといい、異世界からの来訪者が現代に現れたのだ。もしかしたらーー。
「ーーってもうこんな時間か」
オレは食パンを一気に口の中に放り込んでテキパキと服を着替えて荷物を持ち玄関へと急ぐ。
「それじゃあ行ってくるわ」
「はーい。行ってら」
ガチャ、バタン。
士郎が行った後、ミホはチラリと先程のニュースを見やる。
『尚、目撃者の証言によるとその爆発に女の子二人が巻き込まれたとのことですが、一人は無傷、もう一人は腕の関節が脱臼で済んでいるとのことです』
「・・・・・・」
ニュースを見たミホはコップの牛乳を『ズズー』という音を立てて吸うように飲む。
※※※
「はぁーだりぃなー」
ぽつりと呟きながら士郎は補習へと続く道を一歩また一歩とノロノロと歩いて行く。
「・・・ん?」
前の方から二人の女の子がこちらの方へと歩いてくる。一人は小学低学年ぐらいだろうか。少しパーマ掛かったショートの黒髪で、黒の浴衣を着用し、加えて下駄という和風な服装だ。さらにはお気の毒なことに、左腕は胸の辺りで白い布と板でがっちり固定されている。きっとはしゃぎすぎたのだろうな。そして、もう一人の女の子。いや、女の子と言うよりはどちらかと言えば大人の女性という感じだ。その人のオッパイはスイカだった。いや、それは嘘だ。オッパイがスイカな訳がない。ただーー、あの大きさはスイカと呼ぶに相応しい。しかし、オッパイしか魅力が無いと思うのならばそれは飛んだ大間違いだ。ポニーテールに結んだ綺麗な長めの金色の髪が歩く度にはためいている。そして、あの服装がさらにエロス。膝丈ほどのスカートとティーシャツ。ふりふりとしたスカートから時折のぞき見える太もも。そして、見た感じだとサイズがある程度ピッタリなティーシャツ。そうーー、ピッタリなのでオッパイのデカさが! 形が! 丸わかり! サイコー! オレはこの瞬間だけ補習で良かったと思った。補習が無ければ今頃家でまだ寝ていたことだろう。あ、やべ。そろそろすれ違うぞ。
「「おはようございます」」
「あ、はい。おはようございます」
※※※
「皆さーん、おはようございまーす。それでは今日も張り切ってレッツ補習!」
「おはようございまーすオッパーー、じゃなくてヨーコせんせー!」
「ちょっと西岡! いきなりセクハラぶち込んでんじゃないわよ。一発入れられたいの?」
補習開始早々に騒々しくなる教室だがオレはそんなことには目もくれず物思いにふけっている。ーーさっきのオッパイはマジでやばかったな。勿論目の前の教壇に立っている童顔巨乳もなかなかのものだが。・・・今日はオッパイに恵まれて幸せだな。
「よ! なに鼻の下伸ばしてんだよ」
「ふぅわぁ! あ、オッパーー、じゃなくて、おはよう」
隣の席に座っている昨日のペン回し野郎がいきなり話しかけてきてオレは思わずびっくりする。
「どうせエロいこと考えてたんだろ」
「ち、ちげぇよ」
な、何故わかるんだ? もしやこいつもーー。
「僕も同じこと考えてたからさ」
「いやお前もかよ」
こいつも転生者なのかと思ったがーー。まぁ違うだろう。
「そういえば自己紹介がまだだったよね。僕の名前は≪杉野宮章三≫。改めてこれからよろしくね」
「あ、お、おう! オレは村田士郎。よろしくな」
なんだ、案外良いやつそうじゃないか。
「はーい皆さん静かにー。ここに課題のプリントの入った箱を置いておくので今日はこれをやって下さいね。お昼頃にまた戻ってくるのでその時に先生に提出して下さい。クラスと番号と名前も書き忘れないように! それでは」
そう言い残して先生は教室から出て行く。教団の上にはダンボール箱だけが残されていた。
皆さんの好きな形は?