第十二話
「ーーってそろそろどけ! この、びびりのへっぽこ魔王が!」
ドカっ!
「んぎょほ!」
いつまでも顔面に抱きついている魔王をカザミは引っ剥がし床に叩きつける。
「ゆ、ゆ、ゆゆゆ、幽霊〜」
魔王は突っ立っているあの存在をガタガタと震えながら指差す。
その存在は未だに動こうとしない。
「幽霊が苦手な魔王か・・・ーー滑稽だな!」
「う、うるさい。我輩にも苦手ジャンルがあるのじゃ!」
「ぎゃははは! じゃああれか、城にゴースト系のモンスターがいなかったのはお前のワガママだったと言うことか」
魔王を指差しながら抑えようのない笑いを大いに解放するカザミ。
「いや、いたわ! 貴様らドカドカと壁をぶち壊したりしてフロアを巡回させているモンスターやら、挙句の果てにはボスモンスターまでをも見事にスルーして来やがったじゃろ! おかげでほとんどのモンスターが『やったー不労所得だー』なんて喚いておったわ」
「魔王ともあろうものが壁の補強もできないのか。まぁ、来世では何事も入念にすることを心がけることだな」
相変わらずいつまで立っても減らず口なカザミに魔王が核心をつくことを口にする。
「貴様の言う通りじゃ。我輩は気をつけるべき相手を間違えておったようじゃ。ちょっと顔面をぶつけただけで死ぬ《減らず口勇者》なんかよりも、その取り巻きを用心すべきだったようじゃ。所詮は《減らず口勇者》の取り巻きだと侮っておった」
その魔王の言葉にカザミはーー。
「ぐ、ぐ、・・・くそおおおおぁぁぁあああ!」
何も言い返せなかった。
何が悔しかったのかーー
それは。
言い返そうとしたが、シンプルに言葉が見つからなかったから。
「・・・、・・・、ふ。・・・ふ、ーー・・・あっはっはっはっはー! ぎゃーはっはっはっはー! ーーふぅ。ただのイキリの勇者さん、言い返しておいで」
魔王の盛大なる歓喜の渦が勇者を絶望の淵へと叩き落とす。
「く、くそ・・・。ーーくっそおおおぉぉおおををああああ!」
こんなタイミングでようやく魔王と勇者のやりとりらしくなってくる。
「私だって・・・私だってなあああああ! ・・・ふぅ、ふぅ」
大声で叫ぶカザミ。息切れをし、刹那の休憩を挟み、息継ぎをして正直な本音を目の前にいる自分より遥かに幼い少女にぶつける。
「ぶっちゃけお前はモンスターを配置させすぎ! 壁ぶち壊してショートカットしてたとはいえ、それでも有象無象のモンスターどもが次々と押し寄せてきやがるんだ。パーティーメンバーはほとんど飲み会のノリで付いてきやがった村人ばかりだし! 騎士風や魔法使い風の奴らもいたが、風! だから! 風! だから! なんの力も持ってないから! ノリでついてくるとか言って購入してたけどその辺の武具屋の一番安いやつだから! お前の待ち受ける部屋の前で騎士風の男が『カザミ、本当に俺たちは行かなくてもいいのか?』とかなんとか言っていたが邪魔だから! お前を仕留めた先生もお酒を飲みすぎて途中まで酔っていたしな! 押し寄せるモンスターたちを次々と倒して行ったのは私一人だから! おかげでお前に到達するまでに体力がマジで限界に到達していたわああああああ!」