第十一話
「おおぉーんどりゃー!」
「なんですかこのクソパンチは?」
つい先程死んでしまい魂だけとなってしまった魔王とカザミ。二人の魂はなんとも不思議な場所で目を覚ましていた。魂とはいっても死んだ時の姿を保っている。
そして魔王はカザミを発見するや否や、いきなりカザミに殴りかかっていた。
「貴様、我輩が何をしたと言うのじゃ。答えんかい!」
カザミのパーティーメンバーのチート級の魔法で殺された魔王が怒りをあらわにしてカザミにポコポコ殴りかかっているが、あと一歩のところで頭を抑えられ、パンチはカスリもしない。
小学低学年ぐらいの見た目通り、魔王は貧弱なのだ。
「な、お前。このごに及んでしらばっくれるとはいい度胸だな。なら教えてやろう。しっかりと魂に刻み込むことだな。・・・・・・えとー、あのー、そのー・・・。人々の平和を脅かしていた!」
「城で部下のモンスターたちとゲームをしたり鬼ごっこをしていただけでか?!」
魔王はまだかすりもしないパンチを繰り出している。
「な、あ・・・当たり前だ! あんな凶悪なモンスターたちに暴れられたら迷惑に決まっているだろう。ぶっ殺したくなるに決まっているだろう!」
「いや貴様のその思考回路の方が凶悪なんじゃが?! それに我輩はしっかり防音の結界を張っておったわ」
「ふん、お前のへっぽこ結界でしっかり防音できているはずがないだろう。このクソビッチが! 薄いものじゃないと満足できないのか!」
「な、流石に貴様は我輩のことを舐めすぎじゃのう。我輩はまだ純粋に決まっておろう! この容姿を見よ、この容姿を! 麗しいであろう!」
ここで魔王はようやく疲れたのか、パンチをやめ、えっへん! と鼻を鳴らす。そしてその様子にカザミはなんの心もこもってない虚無の眼差し飛ばす。
「どこからどう見てそういう風に見えるのか。私にはお前が邪悪なるオーラが放たれている獣のように見えているぞ」
「ほほぅそれはいい褒め言葉だな。我輩は魔王だからな、そうでなくては困る」
えっへん! とまた魔王は鼻を鳴らす。と、言い合いをしていると魔王はふとこの場所に疑問を抱く。
「・・・それにしても、ここはあの世なのか?」
魔王は気になったことを声に出す。この世界は本当に夕焼けがどこまでも広がっているように見える。水平線の彼方に見える一際強く輝く光ーー。魔王は「むむむ!」と目を凝らして細める。
雲に面積を阻まれ少しだけ顔を出しているあの太陽は沈んでいるのかどうか、魔王の目からはあの太陽は微動だにしていないように見える。太陽の逆方向も見てみる。この世界はあの世なのかどうかよりもあちら側からは朝焼けが見えているのかどうか、そもそもあれは太陽なのか、そっちの方が疑問だ。
「そうだろうな。きっともうすぐお前を地獄に叩き落とすため閻魔大王が顕現するに違いない」
カザミが足元を見ながら魔王の問いに答える。足元を見てみると何もなかったーー。
見えているのは夕焼けの空に比例するように無限に広がる雲のみ。見えない床の上に魔王とカザミは立っている。その床は歩く、触れる、などをするとほんの少し波紋が広がる。まるで水面の上に立っているようだ。
「ふん、我輩は魔王だ。そうなれば地獄の鬼どもは新たな支配者に歓喜に浸るに違いない。ーーん?」
魔王は太陽とは逆方向の水平線を見ていると、自分たちから離れたところに何かの存在を感じ、その存在を確認するためまたしても目を凝らす。
「ほざけ。そうなったところで私が天国から今度こそお前の息の根を止めに行くだろう。なんなら今ここでお前の息の根をーーぶふぅ!」
「ぎゃー! ゆ、幽霊じゃー!」
カザミの戦線布告は魔王が顔面に飛びついてきたことによって遮られる。
カザミは魔王の見ていた方向を見てみると、離れたところで白い何者かがこの透明の床の上に立っているのを確認する。
「ーー!?」
あまりの衝撃にカザミは絶句する。
その存在は顔こそよく見えないが自分たちのことを見ている。
おそらくあそこに立っている何者かは閻魔大王ではない。その存在から放たれる異様な雰囲気にカザミはそう直感する。故に自分たちは天国でも地獄に行くでもない。
ならあいつは一体・・・?
私達の魂をどこかへ導こうとしているのか・・・?
だとすれば私たちの魂はこれからどこに向かうというのだーー。