第十話
時は遡ることほんの少し前━━━。
無数の星が浮かんでいる世界での出来事。
「お・・・おお! やってるねえ。・・・え!? 少年少女よそんなペースじゃ追いつかれてしまうぞーい。お! おお! 追いつかれてしまうのかーー!?」
宇宙空間であぐらをかいてふわふわと浮いているその存在は、とある一つの星の一点を見つめ、そこで巻き起こっている事に夢中になっていた。
「う〜ん、でもやっぱり先程送り込んだあの少女とオーガだけじゃ盛り上がりに欠けるなぁ。まだまだ送り込んだ方が面白くなりそ!。何処かにいい感じの逸材はいないものかねぇ〜・・・う〜ん。」
数秒ほど唸った末に。
「む! なんの根拠もないけど別世界で逸材が生まれそうな予感がするぞ! よし、早速出発だ! ・・・ふぇ、ふぇ、ぶぇっっくしぇーーいん!! あ、やばい! 僕の鼻水が地上に落ちてしまう!」
くしゃみをして飛び出てきた無数の眩い輝きを放つ光の球は、夢中になっていた星の一点目掛けて飛んでいく。
「あれが落下してしまうとこの星にもしかしたら魔力が宿るかも・・・まぁ、そうだとしてもせいぜい雀の涙程度の魔力だろうし、ま! そっちの方がおもしろいか!」
そんな独り言を呟いたあと、その存在は左の手のひらを前方にかかげる。すると、バチバチバチ! という音を奏でて前方の空間がえぐられ、縦長の穴が出現する。
「ふっふっふ。僕だけが──この自称<ナレーター>だけができるおもしろゲーム! 楽しんじゃうぞ〜」
そしてナレーターはえぐられた空間へと飛び込み姿を消した。その直後にバチュン! と、音を立ててえぐられた空間が元に戻る。
***
とある異世界にて━━━。
「これが最後の戦いになる訳だが・・・カザミ、本当に俺たちは行かなくてもいいのか?」
鎧を身に纏った中年ほどの男が、一歩前に立つ若い美女に問いかける。女もどこにそんな力があるのか、中年ほどの男と変わらないぐらいの重量がありそうな鎧を顔以外装備している。
「ああ。みんな、今まで世話になったな。奴とは・・・魔王とは勇者であるこの私が一対一でケリをつける!」
カザミは後ろにいるパーティーメンバーに別れの挨拶を済まして、目の前にある両扉に手を添えると、鎧の男以外のパーティーメンバー達がカザミに言葉を捧げる。
「カザミよ・・・気をつけてな」
ローブを纏った老人の魔法使い風の男が言う。
カザミは目の前の扉に体を向けながら「ああ、ありがとう」と返す。
「カザミちゃん、私・・・待ってるから!」
軽装をしていて白髪の若い女が言う。
「ふ、すぐに終わらせるさ」とカザミは返す。
「「「カザミさん! マジでカザミさんは俺たちの命の恩人っす! カザミさんが帰ってきた時すぐに宴ができるように準備しとくっす!」」」
三人の野郎どもが声を揃えて言う。
カザミは「はは、大袈裟だなぁ」と微笑した後「うん、帰ったら盛大に宴をやろう!」と言葉を募る。
「カザミお姉ちゃん、頑張ってね」
小学低学年ほどの女の子がカザミへエールを送る。
カザミは「あぁ、頑張るよ」と言う。
「カザミ、俺と結婚してくれ」
長袖半ズボンの男からのプロポーズにカザミは「断る」と一言添えた。
「カザミさん・・・立派になられたわね。あの時はこんなにも小さかったのに・・・」
例えるなら大賢者。そんな身なりをしている眼鏡をかけた女性が涙ながらに言う。
その様子を見てカザミもーー。
「ちょっと先生、今はやめてよ。こっちまで泣きそうになっちゃう」
少し半泣きになりつつあった。この感動的な場面に水をさす男が一人。
「カザミ、この前お前が貸してくれたお金・・・来年ぐらいに返すよ」
このクズは現在ノーパン。水着の短パン一枚のみを装備している。
魔王城に攻め込む前に、カジノで負けて身ぐるみを剥がされ、唯一の景品の水着の短パンを装備してそのまま来たらしい。
「お前はさっさとくたばれ」
カザミは罵声を一言クズ男に浴びせる。
「カザミ、お前はこの世界で最強の女だ。絶対負けんじゃねえぞ」
荒くれ者が言う。
長々とパーティーメンバーとの別れの挨拶が続く。
「ふ、当たり前───」
と、カザミが答えようとした瞬間だった。
「もうええからさっさと入ってこんかーーい!」
バーーン!
「ぎゃっ!」
突如勢いよく開かれた両扉がカザミの顔面に、ガン! という音を立てて直撃し、カザミは地面に倒れこむ。
「「「カ、カザミー!?」」」
パーティメンバーが倒れたカザミを見て同時に悲痛の声を上げる。
「全く、勇者が来たと手下どもから聞いていたからずっと座って待っておったのに、中々入ってこんから痺れをきらして出てきてしまったぞ」
カランコロンと下駄の音を鳴らして扉から出てきたのは小学校低学年ぐらいの幼い少女だった。黒髪のショートヘアに、黒衣の浴衣を纏っている。
「ま、まさか・・・お前が魔王か!?」
鎧の男が唖然としながら少女に問いかける。
「いかにも。我輩が魔王じゃが?」
予想外すぎる魔王の姿にパーティーメンバーは唖然としている。
「ちょっと待って!?」
先程の小学低学年ほどの女の子が驚愕の声をあげる。
「何だセレナ? 目の前に魔王がいるっていうのに───」
セレナの方にパーティー全員が振り向き。
「お姉ちゃん・・・息してない!!」
「「「な・・・なんだってーーー!!!」」」
あまりにも突然の惨劇にパーティーメンバーは悲しみに暮れる。セレナはカザミの脈、心臓、呼吸を何回も何回も確認している。が、やはり今のカザミの状態は『死』以外は呼びようがなかった。
「まさかとは思うが、ここで倒れ込んでおるやつが勇者とは言わんよな?」
と、魔王が言うとーー。
「「「・・・よくも・・・よくも俺たちの希望を、勇者をやってくれやがったなー! このゴスロリ魔王がーー!」」」
カザミに命を救われたというパーティーメンバーの野郎共が目の前の魔王に怒りの言葉を投げかける。
「誰がゴスロリじゃ! ていうかやはりこやつが勇者であったのか! こ、この程度でくたばるのか最近の勇者は?!」
あまりの突然の出来事にビックリしているのは魔王も同じだ。そんな魔王に対して野郎共はさらに怒りをヒートアップさせる。
「黙りやがれ、こうなったらてめぇはここで袋叩きだ!! カザミの仇討ちだ! 覚悟しやがれーー!!」
「ちょ、待て! 落ち着け、一旦話し合おうではないか。我輩は特に平和を脅かすことはしてないとは思うのだが? そっちが勝手に我輩の城に乗り込んできて───」
男たちが魔王に掴みかかろうとしたその瞬間のことだった。
「お待ちなさい!」
カザミの先生だった女性が野郎共を制止する。
「カザミさんの仇は私が取るわ。はああ・・・ホーリーオブゴッド!」
「へ? ホーリー? え? ちょ、待って、ぎゃあああああーー!!」
先生が魔法を唱えると、魔王の足元に魔法陣が出現し、その魔法陣から光の柱が顕現する。
「ぎゃあああーー!」
光の柱に閉じ込められた魔王が徐々に徐々に体を灰にされて、消滅させられてゆく。
ほかのパーティーメンバーは口をポカーンとさせながら断末魔を響かせている魔王を見つめている。
━━━そして数十秒後。
「ふ、魔王ともあろうものが口ほどにも無かったわね」
・・・そんなこんなでこの世界の勇者は顔面強打で他界して、魔王は聖なる光によって完全消滅させられましたとさ。