第一話
「村田、お前の留年の危機だ」
「んぇ?」
そろそろ一学期が終わりに近付き、夏休みに差し掛かろうとしていた。そんなとある日の放課後、急遽呼び出されたオレは突然の宣告に思わず間抜けな声をあげる。
進級時に必要な単位が足らなかった場合は進級ができない。
もう一度同じ学年を過ごさなければならない。これを留年という。そんな制度があることを噂で聞いたことがあったが‥‥‥。
「て‥‥‥え? リュ、リュリュリュ!? 留年ですか!?」
と、突きつけられた現実を数テンポ遅れて理解したオレは動揺と焦りを爆発させ担任の教師に聞き直す。
きっと何かの間違い、聞き間違いに違いない!
大きな不安と、ほんの少しの期待で全身の脈と心臓の鼓動を加速させる。すると、次の瞬間ーー。
「当たり前だ」
無慈悲な回答がオレを凌駕する。
「!! っ‥‥‥っっ!?」
変わらない事実にオレは一瞬黙ってしまう。
即座に反論してみるが。
「いやでもぶっちゃけ、そこまで成績が悪い覚えはないんですけど?」
「中間テスト平均16点ってカスかお前は」
村田の虚しい反論を担任が即答でぶった切る。
そして、成績が悪くないなどとふざけたおしたことを言う村田に追撃を見舞う。
「期末テスト平均14点ってゴミですかあなたは?」
「ちょ、教師が生徒に向かってカスだのゴミだの言ってもいいんですか!?」
と、担任の発言にもっともらしい正論をぶつけてみたのだが。
「何を言う、私はただ事実を述べているだけだ。
何度か注意喚起もしたはずだ。それなのになんだこの有様は」
「‥‥‥」
正論をものの見事に丸め込まれた村田は、うっ‥‥‥と唸り再び沈黙へ。
「ちなみにゴミクズカスニートくん?
君は授業態度や提出物もあまり芳しくないようだねー。どうやら学年でワースト最上位なんだとか」
実は少しSっ気のある担任が新たな現実で村田を一閃する。
「‥‥‥ぐす‥‥‥もう、やめ‥‥‥ょおお」
新たに突きつけられた現実に半泣きになり俯く村田。
目から溢れそうになる雫を両手で抑え込みながら今の気持ちが途切れ途切れになってドS教師に向けて漏れ出る。
しかし、その気持ちに対する答えはなかなか返ってこない。
担任は足を組んで両肘をデスクに置きながら視線は目の前のポンコツ野郎に向けられている。
しかし、数秒後鼻をグスグス言わせながら両手で目を抑え込む仕草をしているポンコツ野郎に予想外の答えが返ってくる。
「ふふふ」
「(え、今笑ったこの人ー!?)」
予想外の返答に両手の奥の顔が雷鳴の如き衝撃に穿たれたような表情になり、心の中でおもわずツッコミを入れてしまう。
笑った担任の心境が気になるところだが、いつまでもこんなやりとりをしていても埒が開かないと思ったオレは。
「ま、まあ、まだ留年すると決まったわけじゃないんですよね?」
「ああ、そうだ。なんてったってまだ一学期だ。
二学期三学期と死ぬ気で名誉挽回に励めば、ぎりぎり進級の可能性は残されているだろう」
続けて担任が言う。
「そのために夏休みの<補習>でしっかり士気を高めていかないとな!」
‥‥‥ほんっっとうに教師という輩は!
ーーまあ全部オレが悪いんだが。
ここからオレの血と汗と涙の怒涛の留年回避ストーリーが幕を開けるのだった。
はぁ‥‥‥異世界転生とかしてチート能力を授かってこんな学校やら補習やら、そんなめんどくさいことをしなくていい場所でのんびりスローライフを送りてーなー。
と、ひそかにそんな空想を夢見ているオレだった━━━。