【SIDE国王フェリクス】愛を告げても足りず、永遠を約束しても価値がない
『私のことは考えてもらわなくてもいいのよ。私はあなたの邪魔をしないし、必要ならばすぐにでも、この国を出ていくから』
『私はディアブロ王国に戻ろうと思うの』
2度にわたってはっきりと、彼女の口から私を捨てる言葉を聞いた。
そして、たった今、3度目の言葉を告げられる。
『大半を眠って過ごしたとはいえ、私は12年以上もこの国の王妃だったわ。だから、とっても大切な場所になったこの国を、あなたの言葉通りにじっくりと見せていただこうと思うの。それから、ディアブロ王国に戻るわ』
何を言われても仕方がないと覚悟はしていたが、これほどあっさりと切り捨てられたことに衝撃を受ける。
それから、自分が何も持っていないことを思い知った。
―――ルピアを失ってしまったならば、私には何も残らないことを。
そのことをはっきりと認識し、縋るように彼女を見つめたが、彼女の美しい紫の瞳は既に私を見ていなかった。
◇◇◇
『ディアブロ王国に戻る』とのルピアの発言を聞き、あまりの衝撃に声を発することもできず、ギルベルトとビアージョとともによろめきながら彼女の部屋を退出した。
誰もが無言のまま、ふらふらと廊下を歩く。
しかし、歩くことにも困難を感じたため、手近な客室に一人で入ると、長椅子にずるりと座り込んだ。
それから、背もたれに上半身をもたれかけさせると、天井を見上げる。
……ルピアには何の悪気もない。
ただ、私に恋心を抱いていないだけだ。
そのことを理解するとともに、ふと新婚生活を思い出す。
結婚当初、ルピアに親切に接してはいたものの、彼女への恋心を自覚していなかった自分を。
そのため、互いに同じ言葉を口にしていても、同じように見つめ合っていても、私が感じていたこととルピアが感じていたことには大きな差異があったはずだ。
「もしかしたらあの頃のルピアは、今の私と同じような気持ちになっていたのかもしれないな」
決して意地悪をしているわけではないし、親切にしてくれているのだが、それでも、―――彼女が私に恋をしていないことは明白で、ただそれだけのことで胸がつきりと痛むのだ。
そして、私が彼女に焦がれている分、温度差を感じて悲しくなるのだ―――自分勝手なことに。
私は視線を窓に向けると、庭園に咲く花々を見つめた。
白と紫の可愛らしい花々を。
……ルピアはとても可愛らしい。
彼女の顔立ちは誰もが整っていると表現するだろうし、小柄な姿で私を見上げる姿はとても愛らしい。
そして、彼女はいつだって楽しそうに微笑んでいるから、一緒にいるだけでこちらも楽しい気分になってくる。
さらに、思いやりがある性格は行動の端々に表れているから、ふとした瞬間に大事にされていることを実感し、心がほっと温かくなる。
そんなルピアを知りさえすれば、多くの男性が彼女のことを魅力的だと考え、簡単に恋に落ちるだろう。
一方、私はどうだろうか。
ルピアに見合うべき美点が何かあるのだろうか―――考えても、考えても、ルピアの隣に立てるほどのものは何も見つからない。
だからなのか、愛を告げてもルピアの心には響かない。
彼女が目覚めて以降、多くの時間を彼女と過ごしてきた。
そして、私にとっていかに彼女が大事な存在かを、一生涯彼女しか必要でないことを、何度も、何度も彼女に告げた。
しかし、永遠を約束しても、彼女にとっては価値がない。
そのため、簡単に私を切り捨てようとする。
「これ以上、どうすればいいのか分からない。愛を告げても足りず、永遠を約束しても価値がないのであれば、他に私は何も持っていないのに」
これまで1度も、私は恋に落ちたことがなかった。
そのため、いざ自分がその状態に陥った時、恋のやり方が分からない。
どうやればルピアに関心を抱かせることができ、私につなぎとめることができるのかが分からないのだ。
これまでも、全力で彼女にアプローチしていたつもりだったため、これ以上何をすればいいのかが分からず途方に暮れる。
「……いや、嘆いている場合ではない。私はルピアの心に響く、新たな方法を考えないといけないのだ」
震える両手を組み合わせると、私は自分に言い聞かせるように呟いた。
もしもルピアを失ってしまったら、私に残されるのは暗く絶望に満ちた日々だろう。
私に今があるのは、―――立太子の儀を経ることができ、王となることができたのは、私のために虹をかけ続けてくれたルピアのおかげだ。
命を失うことなく生きていられるのは、ルピアが身代わりになってくれたおかげだ。
毎日に希望を抱くことができ、楽しいと感じるのは、ルピアが隣にいてくれるからだ。
そして、彼女は今、私の子を腹に抱えてくれている。
もはや私の幸福も未来も、全て彼女のもとにしかないのだ。
その日、どうにも気分が浮上できなかった私は、暗い表情をルピアに見せるわけにはいかないと、彼女が目覚めて以降初めてミレナに夕食のサポートを任せた。
しかし、そのことを後悔することになる。
なぜならミレナに任せはしたものの、ルピアが寂しい思いをしているかもしれないとどうにも気になったため、結局は少し遅れて晩餐室に足を踏み入れたのだが、―――そこで、一人の男性が、馴れ馴れしくルピアに話しかけている様を目にしたからだ。
それは、3色の虹色髪をした、私にそっくりな年若い男性で……。
「やあ、僕のお姫様」
驚いたように目を見張るルピアに対して、青年特有の澄んだ声でそう口にしたのは、我がスターリング王国の第一位王位継承者で、実弟のハーラルト・スターリングだった。
ノベル発売中です!
素晴らしいイラストに加えて、たくさん書下ろしました。
★ルピアとフェリクスの甘々な話
★フェリクスがどうしようもなくルピアに傾倒している話
★ルピアがハーラルト&クリスタと一緒に眠る話
★ルピアとイザークの絆の話
品切れになっていた書店さんのうち、再入荷されたところもあるようですので、どうぞよろしくお願いします✽*。✽(ㅅ•᎑•)*.






