87 ギルベルト宰相とビアージョ騎士団総長 5
「ええっ」
フェリクス様は一体何を言い出したのかしら、と驚いたけれど、その後にはしんとした沈黙が落ちたので、宰相と総長の2人もフェリクス様の言葉に同意しているようだった。
そのため、私の言葉は正しいはずだと思いながらも、3人に同調することにする。
「わ、分かったわ。だったら、私はずーっと一生涯、心が痛み続けるけど、それでも2人に罰を与えるべきなのね?」
フェリクス様があまりに辛そうな様子だったので、私にとっては全くやりたくないことだけれど、と思いながら尋ねてみる。
すると、それまで頑なだった彼が、妥協する様子を見せた。
「………………………………違う」
あら?
前言とは異なり、2人に罰を与えなくてもいいと言われたわよ。
けれど、それ以上誰も口を開かなかったため、皆が一体どのような心境でいるのかがよく分からない。
そのため、ちらりと3人に視線をやると、なぜだか全員が傷付いたような表情を浮かべていた。
その表情を見たことで、私までもが感傷的な気持ちになる。
そして、3人を納得させるためには、私が10年前に傷付いたことを認めた方がいいのかしら、という気持ちになった。
「……ホントはね、10年前にすごく悲しい思いをしたの」
迷いながらもぽつりとそう口にすると、ギルベルト宰相とビアージョ総長がはっとした様子で私を見つめてきた。
それから、一言一句を聞き逃すまいとするかのように、私を凝視する。
そのため、私は誤解を生まないよう、2人をしっかりみつめて言葉を続けた。
「聡明で的確な判断力を持つ宰相が、側妃が必要だと認めたのならば、私では足りなかったのねと思ったから。それから、公平で公正な総長が、側妃が必要だと考えたのなら、私より相応しい人がいるのねと考えたから」
口にしただけで、10年前に感じた悲しみが甦ってくるように思われて、私は服の胸元部分をぎゅっと握りしめた。
隣に座っているフェリクス様が、反対側の手を取り、握りしめてくれる。
思わず見上げると、私を心配する様子で一心に見つめている藍青色の瞳があった。
10年も前の話だというのに、フェリクス様はまるで今、私が傷付いているかのように心配してくれているのだ。
その気持ちを嬉しく感じながら、もう1度宰相と総長に向き合うと、2人はこのわずかな時間で顔色を悪くしていた。
―――そう。私は傷付いて悲しい気持ちになったけれど、この2人も私を傷付けたことで、悲しい気持ちになったのだ。
「だけど、そんな結論を出させたことで、私もお2人を苦しめたのだわ。だから、おあいこね?」
そう言って2人に小さく微笑みかけると、泣き出しそうな表情で見つめられた。
「違います……」
「ルピア妃……」
言葉が続かない様子の2人を見て、何も違わないわと思う。
私も苦しかったけど、宰相と総長の2人も苦しんだのよ。だから、同じだわ。
「それにね、フェリクス様にはお話したけど、私は眠っている間に彼への恋心をなくしてしまったの」
そう発した瞬間、2人ははっとした様子で目を見開くと、真っ青になって見つめてきた。
そんな宰相と総長に、私は申し訳ない気持ちで、正直な気持ちを口にする。
「だから、今の私は彼の身代わりにはなれないと思う。そんな私は、彼のためにできることがもうないから、……この国を去るのが正しい道じゃないかと、ずっと考えていたの」
「ルピア、何……」
隣に座っていたフェリクス様は、驚いた様子でびくりと体を跳ねさせたけれど、先を続けられずに絶句する。
そんな彼を、私は静かに見上げた。
フェリクス様はずっと、私がこの国に残るようにと言ってくれ、そのように私を扱っていたから、私が従うはずだと思い込んでいたのだろう。
けれど、時間が経つにつれ、私はこの国に必要ないという気持ちが強くなってきたのだ。
「フェリクス様、あなたはとっても良くしてくれるわ。あなたの優しさは心地いいから、私はつい甘えていたけれど、このままではいけないわよね。だって、今の私は何も返せないのだから、あなたの好意を受け取る権利がないもの」
最近のフェリクス様は、私を甘やかしているとしか言えないほどに、何くれと世話を焼いてくれた。
そして、いつだって私を優先してくれた。
けれど、そのことに対して私が返せるものは何もないのだ。
「だからね、私は素直に思うのよ。宰相と総長が考えたように、虹色髪を持つ新たな妃を迎えた方が、この国のためになるのだろうと」
フェリクス様、ギルベルト宰相、ビアージョ総長は、自分の耳が信じられないといった表情を浮かべ、私の言葉を聞いていた。
3人が言葉を差し挟まないのをいいことに、私は言いたいことを口にする。
「たとえ実質的な利益がないとしても、虹色髪に希望を見出す人がいる限り、その髪色には価値があるはずよ。だから、私とは異なり、その髪色だけで国民に安心を与えることができるのならば、そちらを選ぶべきだわ」
そうでしょう、と同意を求めるようにギルベルト宰相とビアージョ総長に視線をやると、2人ともまるで毒杯でも呷ったかのような苦し気な表情を浮かべた。
それから、力のない声で反論する。
「何度も繰り返して恐縮ですが、私が間違っていたのです。国民に安心を与える方法はいくつもあります。だというのに、当時の私は1つの方法しかないと思い込んでいました。そして、多くの選択肢の中で最も苦労がない方法を選ぼうとしたのです。しかし、当然のことですが、そんな安直な方法では国民に真の安全を与えることはできません」
「かつての私がそう考えたのは、見るべきものを見ておらず、ルピア妃の価値を理解していなかったからです。それは魔女としての特質だけではなく、国王陛下のことを心から想ってくださり、王宮の一人一人のことまで細やかに考えてくださる優しさのことです」
2人が私のことをきちんと見て、評価してくれるのは嬉しいけれど、この2人であれば、きっと別の女性が妃になっても、その方の長所を見つけ出してくれるだろう。
「あなた方の気持ちを勝手に推し量って申し訳ないけれど、きっとお2人の発言は、申し訳ないという気持ちから出ているのよ。でも、謝罪や感謝は、王妃という立場でなくても受け取れるわ」
真っ青な顔で黙り込む2人を見て、納得してくれたのねと判断した私は、隣にいるフェリクス様を見上げる。
「フェリクス様、あなたはこの国とあなたを見て、この10年の間に変化したものを私に感じてほしいと言ったわね。大半を眠って過ごしたとはいえ、私は12年以上もこの国の王妃だったわ。だから、とっても大切な場所になったこの国を、あなたの言葉通りにじっくりと見せていただこうと思うの。それから、ディアブロ王国に戻るわ」
フェリクス様は声が出ない様子で、瞬きもせずに私を見下ろしてきた。
この国に残るようにと、希望を出し続けてくれた彼の望みに反する結論を出したことが申しわけなく、思わず視線を伏せる。
それから、もう1度、宰相と総長に向き直ると、2人に向かって口を開いた。
「だから、これが罰になるのかは分からないけれど、ギルベルト宰相とビアージョ総長には、私が去った後もフェリクス様とこの国を支えてくれるようお願いするわ」
「…………」
「…………」
―――昨日、クリスタ、バド、ミレナは自信満々に、私がどれほど無理難題を言い付けたとしても、ギルベルト宰相とビアージョ総長は黙って受け入れると言っていた。
けれど、どうやら皆の勘違いだったようだ。
なぜなら私が出したとても簡単な要望に対して、2人は決して「諾」と返事をしなかったからだ。
ギルベルト宰相とビアージョ総長は唇を引き結ぶと、苦し気な表情で私を見つめ続けていた。
3/7に、ノベル1巻がSQEXノベルより発売されましたo(^-^)o
★ルピアとフェリクスの甘々な話
★フェリクスがどうしようもなくルピアに傾倒している話
★ルピアがハーラルト&クリスタと一緒に眠る話
★ルピアとイザークの絆の話
などを加筆していますので、お手に取っていただければ嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾
〇別作品が「次にくるライトノベル大賞2022」にて単行本部門1位を受賞しました。
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(いつも色々とありがとうございます!!)






