82 10年間 9
その日の夜、フェリクス様と私室で晩御飯を食べながら、ギルベルト宰相とビアージョ総長に会いたいと相談すると、「明日の午後はどうだろうか?」と即座に尋ねられた。
そのため、私はびっくりして聞き返す。
「えっ、私は問題ないけど、あの2人はスケジュールがびっしり詰まっているでしょうから、まずは2人の予定を確認した方がよくないかしら?」
少なくとも、今日要望して、明日にまとまった時間が取れるほど、時間的余裕があるような仕事のやり方はしていないはずだ。
そう考えながら彼を見上げたけれど、フェリクス様はあっさりと返事をした。
「必要ない。君に会う以上の重要案件は、2人とも持っていないからね」
「……そうなのね」
絶対にそんなはずはないと思う。
2人とも10年前と同じく、文官と武官のトップの地位にいると聞いているから、ものすごく忙しいうえ、対応するのは全て重要案件のはずだもの。
だから、宰相と総長に話を通した時点で、「そんな近々のスケジュールを突然言われても無理ですよ!」と断られ、延期になるのじゃないだろうか。
そう考えていたのだけれど、どういうわけか翌日のお昼に近い時間になっても、2人との面会日程がズレるとの連絡は入らなかった。
これはどういうことなのかしら。
予定が延期されるのであれば、そろそろ連絡が入らないと間に合わないのじゃないかしら、と首を傾げていると、ノックの音とともにフェリクス様が私室に入って来た。
そのため、伝言ではなく直接伝えに来たのかしら、と彼の律義さに驚いていると、フェリクス様は言い難そうに口を開いた。
「ルピア、しばらくこの部屋にいてもいいかな?」
「構わないけど、どうかしたの?」
フェリクス様は執務中のはずだけれど、と訝しく思いながら質問する。
すると、彼は困ったように微笑んだ。
「約束の時間には少し早いが、何かあって君を待たせてはならないと、ギルベルトとビアージョが既に近くの部屋に詰めているのだよ。そのことで、君に何らかの影響があるといけないから、私もここで待機しておこうと思ってね」
「えっ、約束の時間まであと2時間以上あるわよ」
あれ、おかしいわね。
あの2人はものすごく忙しいはずだから、私と面会するとしても、せいぜい5分前に現れるのだろうと思っていたのに、どうしてこんなに早くから待機しているのかしら。
「ええと、待機している間にやるべきことがあるなら構わないけれど、他にやることがないのであれば、お2人に部屋に入ってもらったらどうかしら」
忙しい2人の時間を奪ってはいけないと思いながらそう言うと、フェリクス様は確認するかのように私を見てきた。
「この後2時間の君の予定は? 待つのも彼らの仕事だから、元々、君が予定していたことを、予定通りやるべきだと思う。ああ、もしも私が君の邪魔をしているのならば、すぐに出て行くよ」
「私は……2時間ずっと、窓から雲を眺める予定だったわ」
本当は母国の家族に手紙を書く予定だったけれど、そう言うと、手紙を書くことを優先させられそうに思われたので、考え付く中で最も無為な時間の過ごし方を口にする。
すると、フェリクス様は切なそうな表情を浮かべて、私の頭をよしよしと撫でた。
「そうか。……ルピア、君は王妃だからね。私も含めて、誰だって待たせていい立場なのだよ」
まあ、こんなことを言われるということは、雲を眺める予定が口から出まかせだったことを見抜かれてしまったのかしら。
いいえ、私が認めない限り、出まかせかどうかが分かるはずないわ。
そう考えながら、私は笑顔を浮かべていたけれど、……私は気付いていなかった。
今日は快晴で、窓の外に見える空には雲一つなかったことに。
そのため、にこにこと笑みを浮かべる私を、フェリクス様は困ったように見つめていたのだった。






