表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【10/7完結巻発売】誤解された『身代わりの魔女』は、国王から最初の恋と最後の恋を捧げられる  作者: 十夜
国王フェリクスの後悔と恋慕【SIDE国王フェリクス】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/189

60 恋慕 4

それから、数か月が経ったある日、ルピアの寝室で執務をしていたところ、彼女の服がはだけていることに気が付いた。


ペンを置いて椅子から立ち上がると、彼女の服を整えようと近付いていったが、途中でぎくりと足が止まる。

なぜなら目に入ったものが、信じられなかったからだ。


大きく目を見開いて彼女を見つめるが、目に映るものは変わらなかった。

そして、それが何なのかを理解するにつれて、心臓がばくばくと早鐘を打ち始める。

―――ルピアの左肩に、遠目からでも分かるほどの、深い傷が刻まれていたからだ。


無作法だと思いながらも、ルピアの側に寄ると、震える指で彼女の服の胸元を緩める。

すると、左肩から心臓まで続く、長く深い傷が表れた。


「…………ルピア……」

その傷がどうやって刻まれたのかを理解し、嗚咽を抑えるために片手で口を覆う。

硬直したまま真っ青になっていると、ミレナが部屋に入ってきた。


彼女は私とルピアを交互に見つめると、何が起こっているかを把握して、まなじりを鋭くした。

「全く無作法な行為ですこと! 女性にとって恥ずべき、隠しておきたい傷を暴くなど、許されざる行為ですわ」


ミレナは私を糾弾してきたが、今回ばかりは大人しく引き下がる気になれなかった。

「お前はこの傷を知っていたな。なのになぜ、私に報告しない?」


ミレナは従順な侍女は決して浮かべない表情を見せた。

「ルピア様は傷がある体を恥じておられ、あなた様には決して知られたくないとお思いでした。なぜ私が、主のお気持ちに逆らうのです? どのみち、その傷はルピア様のご決断です。あと数か月長く眠っていれば、綺麗に消えてなくなったものを、分かっていながら目覚められたのですから」


私は鈍器で殴られたような衝撃を受けると、ひきつれた声を出した。

私が彼女に何をしたのかを、改めて理解したからだ。

「…………それは、私に会うためなのだろう? そんな、私のために無理をして目覚めた彼女を、私は責めたのだ…………」


―――ああ、ルピア。

君はどんな気持ちで、私のもとに戻ってきたのだろう。


君は死ぬほどの痛みについて、1度も文句を言わなかった。

私を責めることもなかった。


君はどんな表情で、私に帰ってきたと言ったのだったか。

そこにあった愛を、私は覚えていない。

君の表情は覚えているが、そこにあった深い愛に私は気付いていなかったのだ。


そして、君が私の子を身籠り、人生で1番喜ぶべき報告をした時に、私は君を糾弾した。

―――もう1度あの時間をやり直せるのならば、私はどんな犠牲でも払おう。


君が幸せに満ちた表情で、優しい声で、私の子が腹にいるのだと微笑んでくれるのならば。

1度も叶わなかった時間を、君に取り戻してあげられるのならば。


私はただただ君を抱きしめ、何度でも愛を乞うだろう。



―――そう心から希ったけれど。

失った時間を、取り戻せるはずもなく。

ルピアの状態が、劇的に良くなることもなく。


彼女が眠ったまま、日々はゆっくりと過ぎていった。


そして、季節が一巡する頃には、彼女が眠りながら苦しむことは、ほとんどなくなっていた。

そのことに、心からの安堵を覚える。


その頃には、私の生活スタイルも安定しており、昼は執務室に通い、夜はルピアの寝室で眠ることが常態となっていた。

ルピアの状態は安定しており、夜中ずっと様子を見ている必要はなかったが、もはや自分の部屋で眠る気持ちになれなかったからだ。


彼女が視界に入っていないと、落ち着かない気持ちを覚えるため、寝台から少し離れた場所に長椅子を置いて、その上で彼女を見守りながら眠るようになっていた。


日々暮らしていく中、ルピアの優しさはあちこちに落ちていて、私はそれらに触れる度に、愛しくも切ない気持ちを覚えた。

たとえば私はこの1年間、1度も虹を見なかった。


「私が部屋に籠って過ごしていたことが原因かもしれないが、それだけでもないだろう。……虹はそうそうお目にかかれるものではなかったということに、やっと気が付いたよ。君がどれ程私に、祝福を与えてくれていたのかも」


私はルピアの柔らかい髪をゆっくりと撫でながら、そう彼女に語りかけたけれど、返事はなかった。



―――それから、さらに1年が過ぎた。


ルピアが前回、身代わりで眠った際は、2年で目覚めている。

そのため、いよいよルピアが目覚めるのかと期待したけれど、その後さらに1年待っても、彼女が目を開くことはなかった。


「ルピア、君が眠ってから3年が経過したよ。前回の君は2年で目が覚めたが、……あの時は、傷も治りきらないうちに目が覚めたのだったね」

だから、本来ならばもっと長い時間が必要なのかな、とルピアに語り掛けながら、彼女の手を握る。


「ねえ、ルピア、君はもうしばらく眠るのかな? 君の腕は……いや、腕だけじゃない。どこもかしこもこれほど細くなってしまって、……君が目覚めたら、一緒に食べたいものがたくさんあるよ」


そう言って彼女を見つめたけれど、彼女は私の声が聞こえた様子もなく、ゆったりと眠り続けていた。



―――それから、さらに3年が経ち、彼女が眠り始めてから6年もの月日が経過した。

その頃になると、私は日々、不安な気持ちを抱えながら生活していた。

なぜならルピアの体から、全ての毒はとっくに抜け切ったと思われたからだ。


この3年間、ルピアの顔色は良く、呼吸も穏やかで、ただ眠っているだけのような状態が続いていた。

そうであれば、彼女は目覚めてもいいはずだ。

一体、何のために眠っているのだろう。


聖獣に何度尋ねても、答えはなかった。

しかしながら、聖獣はルピアの側を離れるようになっており、数日間、王宮を空けることもあったので、ルピアの状態は安定しているに違いないと確信を持つ。


そのため、私は毎日のように恐怖を覚えていた。

もしかしたらルピアは、このまま眠り続けるのではないだろうかと。

私は一人だけ老いていき、2度と彼女に会えないかもしれないと。


「ルピア、……ルピア」

私は縋るかのように、彼女に呼びかける。


「図々しい願いだろうが、……私は君と一緒に年を取りたい。一緒に声を上げて笑いたい。悲しい時は、君と手を取り合って涙を流したい」


眠っている彼女の手を取ると、必死になって語り掛ける。

「君がずっと望んでいた西部地区に橋を架けたよ。これで、あの地区が取り残されることは二度とない。そう言ったら、君は喜んでくれるかな。よくやったと、少しは私を褒めてくれるかな。それとも、……もう今さら、私が何をしようとも君の心には響かないのかな。ああ、6年は長いよ。君と時間を共有したい」


しかし、それでも彼女が目を覚ますことはなかった。



―――さらに3年が経過した時、私は絶望的な気持ちの中、突然気が付いた。


……もしかしたら、ルピアは私に会いたくないのかもしれないと。

だからこそ、彼女は眠り続け、目覚めないのかもしれないと。


私は臥せる彼女の手を取ると、自分の額に押し当てた。

それから、震える唇を開く。


「ルピア、……君が私を好きでいることが苦しくて、そのせいで目覚めを拒絶するのならば、その気持ちを捨てればいい。君が私への思いを忘れても、私はずっと君を愛するし、必ず君を取り戻すから」


私の声が聞こえていたかは分からない。

しかし、その日から少しずつ、彼女の頬に赤みが差してきたように思われた。

それから、彼女は眠ったまま微笑んだり、涙を零したりするようになった。


この変化は良い傾向だと自分に言い聞かせ、私は祈りながらルピアの目覚めを待った。



―――それから、さらに1年が経ち、彼女が眠りについてから10年が経過した時、彼女は突然、全く動かなくなった。

それまでは手を動かしたり、体の向きを変えてみたりと、眠っていても動きがあったのに、ぴくりとも動かなくなったのだ。


そのため、私は緊張を覚えた。


この変化は、目覚めの兆しかもしれないと思ったからだ。

私は執務室に行くことを止めると、ルピアの部屋で一日中彼女を見守る生活を始めた。

静かに横たわる彼女を眺めながら、いよいよ彼女が目覚めるのではないかと期待する。


果たして、私の予想は当たっていたようで……。


―――ある美しい冬の日、私は私の妃が目を開ける姿を目にした。

それは彼女が眠りについて、10年後のことだった。


読んでいただきありがとうございました!

これにてフェリクスの章は終了です。


楽しんでいただけたら嬉しいですし、

ブックマーク・評価★★★で応援いただければ励みになります!


★1点、お知らせです★

おかげさまで、本作品が書籍化されることになりました。

とても素晴らしい本になりそうですので、どうぞよろしくお願いします◝(⁰▿⁰)◜✧*˚‧


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★Xやっています

☆コミカライズページへはこちらからどうぞ

ノベル6巻(完結)発売中!
ノベル6巻
ルピアの大変な悩みごと、【SIDEフェリクス】そして、最後の恋は永遠になるを加筆し、
書店特典SSの中から、特に読んでいただきたいものを厳選して7本掲載しました。


コミックス3巻発売中!
コミックス3巻
ルピアとフェリクスの甘々な日々、それから身代わりになり、さらに……
のパートがめちゃくちゃドラマティックに描かれています。
ぐぐっと物語に入り込めますので、ぜひ読んでみてください。


どちらも素晴らしい出来栄えになっています!
ぜひ2冊まとめてお楽しみください!! どうぞよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾
― 新着の感想 ―
[一言] どの作品も素晴らしく、 寝食を忘れて読み耽ってしまいます。 ヒロインが目覚めてくれた、とても展開が気になる場面で続きが気になります!! 本作品の書籍化、他作品の書籍化や更新などご多忙とは…
[良い点] ヒーローが真実を知り 深く反省する姿がとてもいいです。 [気になる点] やっとヒロインが目覚めたのに 続きが読みたくて仕方がありません! [一言] お忙しいと思いますが 更新をとてもとても…
[一言] ルピアがフェリクスさんの毒を受けて倒れて、時々毒の塊吐く、ってところから忙しくて見れなくなって今日一気見した私ですが、もうティッシュが足りないっ…。勘違いしてたフェリクスさんに腹立つけどルピ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ