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【10/7完結巻発売】誤解された『身代わりの魔女』は、国王から最初の恋と最後の恋を捧げられる  作者: 十夜
国王フェリクスの後悔と恋慕【SIDE国王フェリクス】

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59 恋慕 3

最近の私は、ふらふらと王宮内をさまよい歩くことがあった。

ルピアの足跡を辿り、彼女が普段訪れていた場所を1つ1つなぞるように訪れるのだ。


その日、私はルピアの寝室から見える「王妃の庭」に立っていた。

彼女は私室からよく庭を眺めていたと聞いていたので、同じ景色を見つめたい気持ちになったからだ。


すると、一人の騎士が近付いてきて、私の後ろに立った。

「……ビアージョか、久しぶりだな」


声を掛けた相手は、騎士団トップであるビアージョ騎士団総長だった。

私がルピアの寝室に籠りきりになっていたため、彼と顔を合わせるのは私が毒に倒れた時以来になる。


3か月前、毒に冒された私がルピアに救われた場面に、ビアージョは居合わせていた。

その際、彼は私の間近に立っていたため、ルピアの魔法を目の当たりにしている。


そのこともあって、ルピアが魔女であることをビアージョに説明するよう、私は宰相のギルベルトに言い付けていた。


今となっては、ルピアが魔女であることを疑いようもない。

そのため、いざという時に彼女の助けとなるよう、必要な者の間で情報を共有すべきだと考えたからだ。


現時点において、ルピアの侍女のミレナ、宰相のギルベルト、騎士団総長のビアージョの3人に、ルピアの秘密を打ち明けている。

そのため、今後、この3人がそれぞれの立場に立って判断を下す場合、ルピアのことが必ず勘案されるだろう。


ミレナはルピアの身の回り全般を担当しているため、ルピアに関することであれば必ずミレナを通る。

また、ギルベルトとビアージョはそれぞれ文官と武官のトップのため、国内の重要事案の意思決定を行う際に、必ずどちらかを経由する。

そのため、この3人を押さえていれば、ほぼ全ての事柄が網羅され、あらゆる場面でルピアが尊重されることだろう。


そのビアージョは、幼い頃に私の護衛騎士をしていたため、いつだって私の利益になるようにと考えて行動する。

そんな彼は、私の代わりに倒れたルピアを恩人のように感じ、心配しているのではないかと思われた。


そのため、私は庭を眺めたまま、ルピアの現状を口にする。

「ルピアは生きている。この3か月もの間、食事もせず、水も飲まないから、日一日と体が細くなっているが、……その細い体で毒に耐えながら、自らの体を浄化している」


ビアージョは基本的に感情を露にしないのだが、激情を抑えきれないとばかりに、両手の拳に力を込めた。


「誰であれ、噛まれれば必ず死ぬような毒だ。体中を浄化するのに、どれほどの苦しみに耐えなければならないのだろうな。また、どれほどの時間がかかるのだろう。見ているだけでも苦しみを覚えるほどだが、……彼女は挫けることなく、命をつないでくれている。……頭が下がる思いだ」


ビアージョは深く頭を下げると、女神への感謝の言葉を口にした。

それから、私の前に来て跪くと、もう1度深く頭を下げた。

「ルピア妃の隠された能力と勇敢なご行為について、宰相よりうかがいました。何よりも尊き王妃陛下をお迎えされましたことについて、遅ればせながらお祝い申し上げます。それから、改めて我が身の不徳の致すところについてお詫び申し上げます」


「……何についてだ?」

端的に問いかけると、ビアージョは頭を下げたまま答えた。


「2年前の戦場において、フェリクス王をお守りできなかったことについてです。私はあの地で、何としてでも陛下をお守りしなければならなかった。しかしながら、敵兵の接近を許してしまい、そのお命を危険に晒しました」


私は2年前の戦場を思い返していた。

あの時点で、我が国の兵たちは隣国ゴニア王国の領土に踏み入っており、敵地にて陣を構えていた。

そのため、地の利はゴニアにあり、我が国の兵たちが知らぬ坑道を通って、敵兵が接近してきたのだ。


ビアージョ1人が責任を問われる話ではないだろう。

そう思ったが、騎士団総長は後悔に満ちた表情を浮かべた。

「そんな不甲斐ない私に代わって、ルピア妃は陛下のお命を救ってくださった。……私は何度も、戦場で傷を負いました。命を失うほどのものは1つもありませんでしたが、どの傷を受けた際にも、痛くて苦しい思いをしたことを覚えています。あの……あれ以上の苦痛を、ルピア妃が味わっているのかと考えるだけで、慙愧に堪えません」


「……私も、同じ思いだ」

刺し貫かれた時の痛みを覚えている。

あの痛みは絶対に、深窓の姫君が耐えられるものではないはずだ。


「……瀕死の重傷を負った者の一定数は、戦場で使い物にならなくなります。痛みの記憶が残っていて、どうしても体が逃げを打つのです。それなのに……あの日、あの時、毒に冒されていた陛下を前に、ルピア妃は全く躊躇されませんでした。一かけらも躊躇うことなく、痛みと苦しみをお引き受けくださり、陛下を救われたのです」


ビアージョは憔悴した顔を上げると、正面から私を見上げてきた。


「にもかかわらず、私は自分がどれほど無知であるかも知らずに、そのような尊きルピア妃に対して、許されざる無礼を働きました」

そう切り出すと、ビアージョは辞職を申し出てきた。


ビアージョの話に思い当たることがあったため、私は記憶を辿る。

ミレナの話では、ビアージョはルピアに対し、「虹の乙女」であるアナイスを側妃に勧めたとのことだった。

何の不足もない、むしろこれ以上望むべくもないほど素晴らしいルピアに対して、礼を失した行為だ。


いくら私のためを思っていたとはいえ、そして、目の前に見えた事実と思われることがルピアを悪く示していたとしても、この国で最も尊ばれるべき王妃に対して、間違った行為であることは明白だ。


ルピアはビアージョを慕っていたようだから、ショックを受けたことだろう。

だが……。


「辞職は認めない。これほど苦しんでいる妃を残して、お前ひとりが逃げようというのか。残ってルピアに償い、その命を彼女のために使え。私も私の全てを使って彼女に償うつもりだが、私一人で足りるはずもない」


恐らく私が何を言ったとしても、ビアージョは受け入れようと、前もって決めていたのだろう。

彼は深く頭を下げると、恭順の意を表した。


ビアージョは昔気質の義理堅い男だ。

受けた恩は何倍にもして返すタイプで、今後は文字通りルピアのために命を張るだろう。

ただし、そのルピアが目覚めるまでに、長い時間が掛かるだろう……と、そう考えていると、ビアージョが震える指を組み合わせるのが見えた。


彼は頭を下げたまま、組んだ両手を額に当てると、掠れた声を出した。

「ルピア妃がものすごく大切に、蝶よ花よと育てられたことは存じ上げていますが、……あれほど勇敢で、躊躇なく我が身を投げ出されるご令嬢を、私は初めてお見かけしました。ルピア妃を心から尊敬いたします」


「…………ああ」


私は心から同意した。

あれほど勇敢で、優しくて、思いやり深い者など、他にいるはずもない。


……その日、私は2年前に貫かれた左胸と、3か月前に毒蜘蛛に噛まれた左腕を、改めて確認した。

しかし、どちらにも傷一つなかったし、体を動かしてみても、わずかな痛みを覚えることもなかった。


―――苦しいものは全て、ルピアが引き受けてくれたから。


その日、私はルピアの寝台の側近くに置いた椅子に座ると、一日中彼女の手を握っていた。


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ノベル6巻(完結)発売中!
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ルピアの大変な悩みごと、【SIDEフェリクス】そして、最後の恋は永遠になるを加筆し、
書店特典SSの中から、特に読んでいただきたいものを厳選して7本掲載しました。


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コミックス3巻
ルピアとフェリクスの甘々な日々、それから身代わりになり、さらに……
のパートがめちゃくちゃドラマティックに描かれています。
ぐぐっと物語に入り込めますので、ぜひ読んでみてください。


どちらも素晴らしい出来栄えになっています!
ぜひ2冊まとめてお楽しみください!! どうぞよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾
― 新着の感想 ―
[一言] ビアージョ 久々に彼の様子が著されて。フェリクスの真実の臣下は『魔女ルピア』を識り、突きつけられた事実に恐縮し懺悔し辞職を願い出てる。恥を知る者の潔い言動。 現実がそれまでを覆した衝撃は大き…
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