表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【10/7完結巻発売】誤解された『身代わりの魔女』は、国王から最初の恋と最後の恋を捧げられる  作者: 十夜
国王フェリクスの後悔と恋慕【SIDE国王フェリクス】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/189

58 恋慕 2

言い訳にしかならないが、これまで私の前に現れたご令嬢は皆、他人の努力や労働をおのが手柄とする者ばかりだった。


侍女や料理人といった家人が行ったことは、すべて自分の行為と見做すのだ。

たとえばどこぞの侯爵令嬢が、『私が陛下のために作りました』と持ってきた焼き菓子は、最後にアーモンドを振りかけただけだと知っていた。


しかし、高貴なる貴族令嬢が一部でも手伝ったのならば、確かに彼女にとっては「作った」のであって、自分をよりよく見せるためには、どれだけでも自分の手柄にするのだろうと思っていた。

それが普通だと。


そのため、私が懐かしい料理を口にして驚いた時、『王妃陛下が作られたものです』と説明された際も、同様だと考えた。



「陛下、何かお食べになりたいものはございませんか?」

侍従頭から声を掛けられて、私は顔を上げた。


彼が自ら話しかけてくることは滅多になかったため、彼から心配されるほど、私は不調をきたしているのだろうかと、自分の体を見下ろした。

すると、目に見えて肉が落ちている腕や足が目に入った。


思い返してみると、確かに最近は食欲が落ちていた。

しかし、ルピアが臥せている今、私が病気になるわけにいかないと、少しでも食べられそうな物を考える。

すると、ルピアが再現させてくれた懐かしい料理が頭に浮かんだ。


「クフロスを」

声に出しながら、この料理もルピアが私のために、宮廷料理人たちに作らせたのだと思い出してしんみりする。



しかし、その日の夜に出された料理は、私が食べたかったものと全く味が異なっていた。

一口食べただけでカトラリーを置く私を見て、侍従頭が困惑した様子で尋ねてくる。

「お口に合いませんでしたか?」


「私の味覚が変わったのかもしれないが、覚えていた味とは異なるようだ」

そう返すと、侍従頭は申し訳なさそうに返事をした。


「実は、料理長から謝罪の言葉を預かっておりまして、お伝えさせていただきます。『これまでお出ししていたクフロスは王妃陛下の手作りで、王妃陛下しか再現できない味になっております。申し訳ございません』」


私は驚いて、料理長を呼び付けた。


間もなくして駆け付けてきた料理長は、恐縮したように頭を下げると、コック帽を握りしめながら口を開いた。

「あの料理は、芋を洗って皮をむくところから、お皿に盛り付けるところまで、全て王妃陛下が行われておりました」


「ルピアが? 野菜を洗って、切ったというのか?」

「はい、それはもう見事なお手並みでした」


突然、激しく拍動し始めた心臓の音を煩く感じ、私は服の胸元を強く握りしめた。

……確かにルピアが作ったとの報告を受けていたが、実際に彼女が作っていたのか?

私は料理人たちが作ったとばかり思い込んでいたが、……彼女は料理ができて、私のために時間と労力を使ってくれていたのか?

「だが、そんなことをすれば、どれほどの時間がかかるのか」


私の質問に対し、料理長は恐ろしい答えを返した。

「3時間です。そのため、あの料理は王妃陛下のお時間がある時にのみ、作られていました。……調理室には『王妃陛下の樽』と呼ばれている場所があります。あの料理は、芋を細かく砕いて、バターと小麦粉と混ぜるのです。それを王妃陛下は『王妃陛下の樽』に座られて、1時間かけてやられていました」


「1時間も混ぜ続けるのか?」

ルピアの細い手首が思い出され、その労力はいかほどのものだったのかと不安になる。


思わず痛まし気な表情を浮かべた私の前で、料理長は早口で言葉を続けた。

「王妃陛下はクフロスを作られる時は必ず『王妃陛下の樽』に座られて、『料理で大事なのは気持ちなのよ。混ぜて、混ぜて、混ぜて、そして、混ぜて!』と楽しそうに口にされながら、混ぜられていました。その言葉には聞き覚えがあります。先代の料理長の口癖です。王妃陛下は先代料理長に料理を師事されておりました」


私は片手でぐっと口元を押さえた。

こんな偶然が起こるはずもない。

ルピアは分かっていて、私の料理を作っていた料理人を師としたのだ。


「前料理長はバターと小麦粉を混ぜる時に、独特の手首の回し方をされていました。王妃陛下は全く同じようにされるのです。私たちも同じ教えを受けましたが、手首に負担がかかるので、誰も継承しなかった。けれど、王妃陛下はやられていたのです。1時間、漫然と混ぜるのではなく、1回、1回、意識しながら、ただ、食する方のためを思って作られていたのです」


ルピアが私のことを思って料理を作ってくれた。

ああ、だからこそ、あれほど美味しく感じたのだろう。


「……私たちに、同じ料理が作れるはずはありません。陛下がもう一度食べたいと思われることに、不思議もありません。王妃陛下の料理は美味しいに決まっています。ただ、陛下のことだけを考えて、一心に作られていたのですから」


声を出せる気がしなかったので、私はうつむいたまま頷いた。


そんな私に対し、料理長は声を詰まらせると、掠れた声で続けた。

「王妃陛下がものすごく高貴な方であることは存じ上げていますが、……あんな風に、きらきらと光るように一心に恋をされている方を、私は初めてお見かけしました」


「…………ああ」


……その日、私はそれ以上一言も発することなく、ただルピアのことを考えていた。


いつも読んでいただきありがとうございます!

(思っていたよりもフェリクス王パートが長くなりました。できれば毎日か2日置きくらいに更新して、あと数回でこの章を終わらせられればと思います)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★Xやっています

☆コミカライズページへはこちらからどうぞ

ノベル6巻(完結)発売中!
ノベル6巻
ルピアの大変な悩みごと、【SIDEフェリクス】そして、最後の恋は永遠になるを加筆し、
書店特典SSの中から、特に読んでいただきたいものを厳選して7本掲載しました。


コミックス3巻発売中!
コミックス3巻
ルピアとフェリクスの甘々な日々、それから身代わりになり、さらに……
のパートがめちゃくちゃドラマティックに描かれています。
ぐぐっと物語に入り込めますので、ぜひ読んでみてください。


どちらも素晴らしい出来栄えになっています!
ぜひ2冊まとめてお楽しみください!! どうぞよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾
― 新着の感想 ―
[良い点] クグロフを作る時のルピアのかわいらしい様子とそれを伝えてくれる料理長。 他の方も書いていらっしゃいましたが、「王妃陛下の樽」のエピソードは心が温まる素敵なシーンだと思います。 [一言] ル…
[一言] 『王妃陛下の樽』表現が好き スターリング王国でちゃんと愛されているルピアがいた ミレナ&kidsだけじゃなかった よかった 料理長は今後も魔女や虹と関係なくルピアをみるんだろうなぁ ミレナ…
2022/03/19 21:03 退会済み
管理
[良い点] ただ、食する方を思い意識しながら料理をする きらきらと光るように一心に恋をする きっと嬉しそうに楽しそうにフェリクスを思いながら作業していたんだね。その様子に涙がこみ上げる。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ