170 『虹の乙女』ブリアナの企み 1
今夜は王宮主催の夜会が開催される。
国王夫妻の出席は必須だから、フェリクス様とともに会場に続く長い廊下を歩いていたところ、後ろからミレナの心配そうな声が響いた。
「ルピア様、くれぐれも無理はしないでくださいね」
どうやらミレナは私が夜会に出て疲れはしないかと、心配してくれているようだ。
「今夜は私を心配したミレナが、夜会にまで付いてきてくれたのよ。だから、無理をせずにおとなしくしていると約束するわ」
笑顔で振り返ると、夜会用にドレスアップしたミレナの姿が見えた。
その姿が咲き誇る大輪の花のようだったので、私は嬉しくなってにこりと笑う。
私の企みを知っているフェリクス様は、隣でやれやれとばかりに肩をすくめた。
◇◇◇
ミレナは可愛らしくて、気立てがよくて、頭がよくて、宰相の妹で、侯爵家の令嬢だ。
さらには、王妃付きの専属侍女で、王とも直接話ができる立場にあり、王宮で働く女性の中で最も地位が高い。
そして、虹色髪を持っている。
そんな彼女は、この国で最上の女性だと言えるだろう。
しかしながら、ミレナの条件は煌びやか過ぎて、高値の花過ぎるから、男性が近寄りにくいのではないだろうかと私は心配した。
そのうえ、ミレナは妊娠した私を心配してなかなか休みを取ろうとしないから、いくら結婚する気があったとしても、男性と知り合うこと自体が難しいはずだ。
そのことに気付いたため、私はミレナを夜会に連れ出すことにした。
その席で、ミレナを素敵な男性と引き合わせたいとフェリクス様に相談したところ、彼は二つ返事で引き受けてくれた。
ミレナの好みはよく分からないけれど、どうかいい出会いがありますようにと祈りながら、フェリクス様、ミレナとともに夜会会場に入る。
すると、大勢の紳士淑女に出迎えられた。
私が妊娠したことは知れ渡っているようで、フェリクス様が王国の未来に乾杯すると、次代を祝福する声が続く。
夜会会場にしつらえられた王妃専用の椅子に座っていると、見目のいい30歳くらいの男性が近付いてきて、私の側にいたミレナに話しかけた。
理知的な男性で、ミレナの好みに合うんじゃないかしらと思ったけれど、彼女はそつのない返答をするばかりで、彼を気に入ったかどうかは分からなかった。
しばらくすると、入れ替わるように別の男性が現れて、ミレナに話しかける。
さらに3人目が現れたのだけれど、その男性はこれまでと違い、何とも軽薄そうだった。
ぴかぴか輝く金髪に白と緑の服を合わせている姿は、いかにも伊達男に見える。
心配になってフェリクス様を見ると、彼は安心させるように微笑んだ。
「君の心配はよく分かる。私も初めて彼に会った時は、こんな男性が侯爵だなんて我が国は大丈夫かと、不安になったものだ。見た目通り、侯爵は軽いというか、これまで私の周りにいなかったタイプではあるが、悪い人物ではない。頭はいいし、女性に人気があるようだから、ミレナに響くかもしれないと思ったのだ」
「そうなのね」
確かに同じタイプの男性ばかりを揃えるよりも、色々なタイプの男性を集めた方が、ミレナの好みの男性が見つかる可能性は上がるだろう。
もう一度ミレナに視線をやると、彼女はしかめ面をしていたものの、先ほどまでの取り澄ました表情ではなくなっていた。
そんな2人を見て、フェリクス様は何かを感じたようで、侯爵に向かって声をかけた。
「ベルナー侯爵、私はルピアと内緒話がある。その間、ミレナとともにバルコニーへ行き、夜空を眺めていてくれないか」
「それはまたロマンティックな指令ですね。ふふふ、私の独身生活はそろそろ終わりを迎えるのかもしれません」
フェリクス様のわざとらしい言葉にベルナー侯爵は軽い調子で返すと、ミレナの手を取った。
「今日の私は、衣装の差し色に緑を使用していますが、ミレナ嬢の髪色と全く同じですね。運命かもしれません」
運命ではなく、事前にフェリクス様から話を聞いていたベルナー侯爵が、ミレナの色に合わせたのよねと思ったけれど、私はにこやかに話を合わせる。
「まあ、本当ね。ミレナは素晴らしい女性だから、男性が彼女に運命を感じたとしても不思議ではないわ」
「おや、『私が』ではなく、『男性が』彼女に運命を感じるのですか。そうであれば、私以外の男性にも可能性があるということですね。なるほど、私にはライバルがたくさんいるようだ。ふふふ、私は急いで私の魅力をアピールしなければならないのですね。それでは、国王陛下、王妃陛下、御前を失礼します」
ベルナー侯爵は優雅に紳士の礼を執ると、にこりと私たちに微笑んだ。
それから、ミレナとともに会場の中ほどまで歩いていくと、バルコニーに通じる扉を開ける。
「確かに個性的だけれど、頭の回転が早い方ね」
それに、動作もとても綺麗だわ。
感心しながらミレナとベルナー侯爵を見つめていると、フェリクス様が考えるように顎を摘まんだ。
「ミレナは頭がいいからな。あれくらい機転が利く相手のほうが、一緒にいて楽しいはずだ」
フェリクス様はそう言うと、手を伸ばしてきて、私の頭をよしよしと撫でた。
「これで今日の君の仕事は終わりだ。後は少しばかり皆を眺めたら、早めに退席することにしよう」
「いえ、私はもう少し夜会にいたいわ」
「……そうなのか?」
フェリクス様は気遣うように見つめてきたけれど、私が明るい表情で見返すと、分かったとばかりに頷いた。
そのため、私は深く椅子に座り直すと、集まった貴族たちに視線を移したのだった。
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応援いただいた皆様、本当にありがとうございます(❁ᴗ͈ˬᴗ͈))))
10/7(火)ノベル6巻(完結)&コミックス3巻が同時発売されます!
★ノベル6巻★
〇加筆分
1 ルピアの大変な悩みごと
2【SIDEフェリクス】そして、最後の恋は永遠になる
とうとう完結です。長い間お付き合いいただきありがとうございました!
ルピアとフェリクスが3人家族になるお話など、甘々の後日談を2つ加筆しました。
素敵なイラストとともにぜひお楽しみください。
〇特別掲載分
1 【SIDEアスター公爵】リスではなく聖獣だったバド
2 クリスタ直伝 アフタヌーンティー・スイーツの食べ方
3 【SIDEベルナー侯爵】ベルナー侯爵の受難・国王から会話術アップの講師として招集される
4 【SIDE国王フェリクス】ルピアが悪夢を見ないか心配する
5 【SIDE国王フェリクス】フェリクスとハーラルトの反省会
6 【SIDE国王フェリクス】ルピア、ギルベルトにクッキーを差し入れる
7 フェリクス様と祝う二人きりの誕生日
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★コミックス3巻★
ルピアとフェリクスの甘々な日々、それから身代わりになり、さらに……のパートをめちゃくちゃドラマティックに描いてもらいました。心が揺さぶられること間違いなしです。ルピアがずっと可愛いのがすごい! ぐぐっと物語に入り込めますので、ぜひ読んでみてください。
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