165 ルピアと過保護軍団 1
最近、私は困っていることがある。
私が母国から戻ってきて以降、皆が私に対して過保護になり過ぎていることだ。
たとえば私が暑くも寒くもないよう室温に気を配ってくれたり、空腹じゃないかと心配して日に何度もおやつを差し入れたりしてくれる。
それから、私が好きだと言った果実入りのゼリーが毎日、食卓に上るのだ。
これらの行動は、私が母国から戻ってこないかもしれないと心配したことの反動かもしれないし、少しだけ私のお腹が膨れてきたため、その姿を見て庇護欲が湧いたからかもしれない。
いずれにせよ、誰もが私を必要以上に保護しようとしてくるので、私は立派な大人として抵抗している最中だ。
◇◇◇
その日、私はバドと一緒に庭を散歩していたのだけれど、私室に戻ると、部屋の中にいたミレナに質問した。
「ミレナ、王宮の一角が立ち入り禁止になっていたわ。改装でもしているのかしら?」
数日前に通った時は、普通に通ることができたので、ここ最近で何かやり始めたようねと思いながら答えを待つ。
すると、ミレナはその通りだと頷いた。
「はい、これまで薄いグレーで統一していた廊下や客室の壁紙を、白色に変更するそうです。併せて、金色だった飾りの色を紫色に変更するそうです」
偶然よねと思いながら、念のためミレナに確認する。
「たまたまだろうけど、私の髪と瞳の色と同じだわ」
「たまたまではないと思います。我が愚兄のアイディアですから、間違いなくルピア様のご威光を王宮中に行き渡らせようとしているのでしょう。あ、カーテンも全て紫色になるそうです」
「……フェリクス様は宰相の暴挙を止めなかったのかしら?」
「逆ですね。素晴らしいアイディアだと、珍しく王が愚兄を褒めたそうです」
「何てことかしら」
私は頭を抱えたけれど、ふと思い出したことがあり、顔を上げて質問する。
「そういえば、今日私が通った全ての廊下に、ふわふわの紫色の絨毯が敷いてあったわ。まさかあれらも全て、私の目の色に合わせたわけではないわよね」
「紫色の絨毯はフェリクス王のアイディアですから、もちろんルピア様の色に合わせているのだと思います。もしも万が一、ルピア様が転ぶようなことがあった場合、衝撃を受け止めてくれるようにと絨毯を敷かれたそうです」
「……そう」
まずいわ。
これまでの皆は、私が快適に過ごせるよう、室温を気にしたり、美味しそうな食べ物を差し入れたりと、過保護とはいいながら、常識に収まる範囲で行動していた。
けれど、今回、フェリクス様とギルベルト宰相が、その範囲を逸脱してきた気がする。
このまま何もしないでいると、2人は『この行為は許された』と勘違いし、同じような行為を繰り返すようになるかもしれない。
さらには、周りにいる他の人たちも同じように考え、2人を真似て常識の範囲を超えてくるかもしれない。
これは、急いで何とかしないといけないわ……。
「そうだわ! 今後、私はフェリクス様への態度を改めることにしましょう。彼に対してもっとぐいぐいと積極的に迫っていくのよ」
突然、素晴らしいアイディアが浮かんだため、私はにこりとしてミレナに告げた。
最近、私はクラッセン侯爵家の兄妹を見ていて気付いたことがある。
ギルベルト宰相は基本的に妹のミレナに強気だけれど、ミレナが激しく言い返すと勢いに呑まれ、妹の言い分を聞き入れているのだ。
あの駆け引きは応用できるはずよ、と私はにこりとする。
最近のフェリクス様はいつだって、私に好意を示してくるし過保護だ。
つまり、私に対する勢いが強過ぎるのだけれど、もしも私の方が前のめりになったら、驚き冷静になって、押すのを止めて引いてくれるんじゃないかしら。
素晴らしい考えだわとにこにこしていると、ミレナは何か言いたそうにしたけれど、すぐに諦めたような表情を浮かべたのだった。