163 フェリクス様の10年分の懺悔 4
フェリクス様の10年前語りの大半は、私への好意の告白だった。
けれど、さすが有能だと評される国王だけあって、10年前に起こった出来事のあれこれや、その後の経過についても、とても分かりやすく説明してくれた。
そのため、私は知らなかった多くのことを、新たに知ることができた。
まずアナイスについてだけど、彼女は国内各地を巡っている最中らしい。
アナイスは『虹の乙女』として、兄のテオとともに痩せた土地を回り、『虹の乙女』の加護を分け与えているとのことだ。
正しく女神に愛されているのであれば、目に見える成果が表れるはずだから……とフェリクス様が護衛を付けたうえで、2人を各地に送り出したらしい。
「アナイスを送り出したのは、私が眠りについた直後だから、もう10年ほど経っているのよね。そろそろ王都に戻ってきてもいいんじゃないかしら」
10年は長いわと思いながらフェリクス様を見上げると、そうだねと頷かれる。
「時々、報告のために王都に戻ってくることはある。しかし、思ったほどの効果が出ていないため、再び人々の要請を受けて各地を回っているんだ」
そうでしょうね。『虹の乙女』が直接、自分たちが暮らす土地に来て、その力をふるってくれるとしたら、誰もが来訪を希望することだろう。
「我が王国の大地は元々痩せていたが、『虹の女神』が虹をかけたことで豊かになった。大地を豊かにすることは『虹の女神』の本務だから、その愛し子であるアナイスにとって、同様の加護を与えることは容易いに違いない。そう思っていたが、報告を聞く限り、私の見込み違いだったのかもしれないな。アナイスの人気も日に日に下がってきているようだし」
フェリクス様が邪気のない笑みを浮かべたけれど、本当にその言葉を信じていいのか分からない。
最近、気付いたことだけれど、フェリクス様はいつだって私の気持ちを優先すると言ってくれているものの、いくつか例外があるようだ。
そのうち1つは私への好意を示すことで、もう1つは私を守ることだ。
フェリクス様が私への好意を示すことと私の希望が相反した場合、または私を守ることと私の希望が相反した場合、彼はだいたいにおいて私の希望を後回しにするのだ。
そのことを理解してフェリクス様を見ると、彼はアナイスが私を傷付けたことを知っているから、理由を付けてできるだけ私から遠ざけようとしているように思える。
私が疑いの眼差しを向けていることは分かっているだろうに、フェリクス様は穏やかな表情のまま話を続けた。
「アナイスは地方の土地に加護を与えている最中で忙しいからね。最近では、アナイスの代わりにブリアナが、新たな『虹の乙女』として、王都で行われる虹の女神関連の行事に参加している。しかし、彼女も人間性に問題があったようだ」
先日の諍いを思い出したのか、フェリクス様が話をしている最中で顔をしかめた。
「複数の虹色髪を持って生まれた場合、自分は特別だと考え、傍若無人に振る舞う傾向が強くなるようだ。これまではそのことを仕方がないことだと考えていたが、結局は個人の資質なのだとルピアを見ていて気が付いた。私の魔女は誰よりも尊いのに、これほど謙虚なのだから」
フェリクス様は得意気に呟くと、私の髪に唇を寄せてきた。
まあ、私の髪は食べ物じゃないわと、彼の胸を押したけれど、びくともしない。
「フェリクス様は私を褒め過ぎよ」
当然の注意をしたけれど、フェリクス様は私の頭に口付けを落とすと、困ったように微笑んだ。
「そうだといいのだけれどね。君が素晴らし過ぎるのも問題だな。君のことを知った者は誰だって、君に惹かれるに決まっている」
そんな風に、その日の夜も、やっぱり私への好意の告白で終わってしまったのだった。