162 フェリクス様の10年分の懺悔 3
それから10日が経過した。
10年前の誤解を解くために始まったフェリクス様の説明は、まだ終わっていなかった。
「……それで、私はとても君が好きなことに気が付いたんだ」
「…………」
頬を染め、嬉しそうに語るフェリクス様を前に、私は返す言葉を見つけられず無言になる。
けれど、フェリクス様はそんな私に気付くことなく、まだまだ話すことがあるとばかりに、嬉々として話し続けたのだった。
さらに一週間後。
フェリクス様の10年前語りは、まだ終わっていなかった。
「ルピア、私には君だけだ。その気持ちは一度も変わったことはないし、惑ったこともない。私が勝手に誤解して、君に酷い態度を取った時も、君から離れようとは決して思わなかった」
「……………………」
むしろ話の内容が悪化したように思われたため、私は遠い目をする。
けれど、フェリクス様はまたもやそんな私に気付くことなく、すらすらと話を続けたので、私は彼の話を拝聴し続けたのだった。
ここにきてやっと、私は気が付いた。
どうやらこれは、罪の告白の形を取った好意の告白ではないかしらと。
なぜならどんな話をしたとしても、最後には必ずフェリクス様がどれほど私を好きかという話になるからだ。
初めのうちは恥ずかしいけれど嬉しいわと思っていたけれど、あまりに繰り返されると、どんどん羞恥の方が勝ってきてしまう。
10年の眠りから目覚めた際にも、フェリクス様はたくさんの言葉を私にくれた。
けれど、私は彼への恋心を失くしたと思っていたから、止めてほしいと頼んだのだ。
『私の心からはあなたを想う気持ちが抜け落ちてしまっていて、同じ言葉を返せないの。そして、そのことがすごく心苦しいわ。だから、もうこれ以上、私のために言葉を重ねないでほしいの』
そんな酷い言葉を投げつけたというのに、フェリクス様は変わらず私に優しくしてくれた。
そして、素敵な言葉を重ねてくれたのだけれど、私の心には響かなかった。
しかし、彼のことを好きだと意識してからは、彼の言葉はとても心臓に悪い。
「この10年間、ルピアの好みはどんな男だろうと考え、少しでも君の好みに近づくようにと私は年月を積み重ねてきたのだ。少しでも君が好いてくれると嬉しいな」
こんな風に甘ったるい言葉を毎晩、毎晩、好きな男性の口から直接聞かされるのだ。
多分、私が耐えうる限界をいつか超えてしまい、私は恥ずかしさのあまり、フェリクス様の甘い言葉たちに倒されてしまうんじゃないかしら。
本気でそう考え始めたというのに、フェリクス様は真顔でとんでもないことを言ってきた。
「君が10年間眠ることになった原因の一つは、側近たちが私の感情を読み間違えたことだ。だから、今後は誰一人誤解することがないよう、私のルピアへの気持ちをもっと皆に示していこうと思う」
「えっ、それはどうなのかしら」
誰一人誤解することがないほどの好意を示すというのは大変なことだ。
他人の感情に敏感な者もいれば、鈍感な者もいる。
鈍感な者にも理解させるとなると、今以上に甘い対応をフェリクス様から受ける形になるんじゃないかしら。
そう悪い予想をしていると、フェリクス様が笑顔で私の予想を肯定してきた。
「これは私が失態を演じたことに対する反省の表れだ。だから、皆の理解が浅いようだったら、どんどん君に好意を示す度合いを強めていくから」
何か違うわと思ったけれど、明確に何が違うのかを説明できなかったため、困ったようにフェリクス様を見る。
すると、フェリクス様はゆったりと私を抱きしめた。
「だから、ルピアも私が皆の前で好意を示すことに慣れてほしい。そもそも私には、10年分の溜まりに溜まった好意を示したいという欲が解消されずに残っているのだから」
フェリクス様はいつだって私の話を聞いてくれるし、できるだけ私の望みを叶えようとしてくれる。
けれど、これはどれだけ嫌だと言っても叶えられないようだ。
そのことに気付いた私は、がっくりと項垂れた。
それから、10年もの間眠り続けたことを、初めて後悔したのだった。
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