159 合同生誕祭 6
クリスタは顔の下半分をスカーフで覆っており、赤い顔をしていたものの、足取りはしっかりしていた。
彼女は私を見て微笑んだ後、できるだけ私から離れた場所に立つと、持っていたトレーの中から橙色の紐を取り上げ兄に渡す。
すると、フェリクス様はその紐を私の腰回りに巻き付けた。
「王妹クリスタ・スターリングを通して、虹の女神の祝福である『橙の癒し』を私の妃に贈る」
続けて、クリスタが黄色の紐を手渡すと、フェリクス様は再びそれを私の腰回りに巻き付ける。
「重ねて、クリスタを通した虹の女神の祝福だ。エネルギーの源である『黄の太陽』を贈る」
今度はクリスタと入れ替わる形で、ミレナが大きなトレーを持って現れた。
トレーの上には4本の紐が載っている。
ミレナはその中から緑色の紐を取ると、フェリクス様に向かって差し出した。
彼はそれを私の腹部に巻き付けると、ミレナの祝福を言葉にする。
「クラッセン侯爵家の令嬢、ミレナを通した虹の女神からの祝福だ。恒久なる『緑の自然』を我が妃に贈る」
それから、フェリクス様は自らトレーに手を伸ばすと、青色の紐を手に取り、私の腰に巻き付けた。
「スターリング王国国王フェリクスを通し、最愛の妃へ虹の女神の祝福を贈る。いつまでも色褪せない『青の芸術』を君に」
続けて、藍色の紐を手に取ると、同じように私に巻き付ける。
「重ねて、私を通した虹の女神からの祝福だ。完全なる『藍の調和』を贈る」
最後に紫色の紐を手に取ると、丁寧な手付きで私の腹部に巻き付けた。
「重ねて、私を通して虹の女神の祝福、輝ける『紫の精神』を妃に贈る」
そんな風にフェリクス様は、祝福の言葉とともに七種類の虹紐を私の腹部に巻き付けてくれたのだけれど、その時には辺りはしんと静まり返っていた。
後から聞いた話によると、いくら王妃が懐妊したとはいえ、通常腹部にまく紐は2本から3本らしい。
それを、敢えて7本全部巻いたことで、フェリクス様の執着の深さが国民に伝わったらしいのだ。
誰もが驚愕して見つめる中、フェリクス様は少しだけ体を傾けると、私の腹部に唇を付けた。
それは、誰の目にもフェリクス様が妃に心酔しており、子の誕生を心から待ち望んでいることが分かる仕草だったため、その場は大変な歓声に包まれた。
一方の私は、まさかフェリクス様がそのような行動に出るとは思わなかったため、驚きで顔がみるみる真っ赤に染まる。
すると、そのことですら冷やかす材料になったのか、広場に響き渡る歓声はますます大きくなった。
「ひゃー、と、とんでもない溺愛シーンですわ!」
「ご結婚して10年以上経つとは思えないほどのアツアツ振りですわね!!」
人々の声の一部が、ステージまで届いてくる。
それらの声を聞いたことで、さらに顔を赤くしていると、フェリクス様が跪いたまま私を見上げ、片手を取った。
「ルピア、言ったことはなかったが、君が長い眠りについたばかりのころ、君の従兄が我が国を訪ねてきた」
「何ですって」
どうして私の家族たちは、私が知らない間に色々と暗躍しているのかしら。
そして、誰もそのことを私に伝えないのかしら。
「私が君を傷付けたことを知ったイザークは、非常に興奮していて……」
イザークのことだから、激高していたということね。
「イザークは君を彼の前に連れてこいと主張した。彼は言ったのだ。『我がディアブロ王国は、国中で最も尊く、貴重なる姫をこの国に差し上げた! 誰からも敬われ、傅かれてしかるべき、どこに出しても恥ずかしくない王女殿下だ!』とね」
「イ、イザークったらものすごく大きく出たわね」
彼は私を甘やかしているところがあるから、本当にそんな発言をしそうだわ。うう、従兄ばかだわ。
「それから、彼は『僕が彼女に恭順の意を示すのは、限られた者しかいないプライベートスペースではない! ルピア・スターリングはこのイザーク・アスターが敬愛すべきただ一人だと、多くの耳目がある場で示すに値する姫だ!!』と続けた」
「い、言い過ぎだわ」
どうしよう。もはや従兄ばかという言葉では、イザークを表現できないわ。
10年前の出来事とはいえ、申し訳ない気持ちになっていると、フェリクス様はさらに言葉を続けた。
「しかし、眠り続ける君を、イザークの前に連れてくることなどできやしない。だから、君の従兄に約束したのだ。『妃の体調が回復した折に、私が貴君に代わって、公的な場で妃に敬愛の意を捧げよう』とね。私は今、その約束を果たしているのだ」
静かな声で語るフェリクス様の瞳に真剣な光が輝いていたため、私ははっとして彼を見つめる。
魅入られたように彼を見つめていると、フェリクス様は握った私の手に額を当て、大きな仕事をやり終えた後のように朗らかに笑った。
「ルピア、10年越しの宿題をやっと終わらせた気分だよ」
彼の高揚した気分が伝わってきたため、私は笑顔で質問する。
「ご感想は?」
フェリクス様は笑っていた表情を引き締めると、真剣な表情で見上げてきた。
「最高の気分だ。……ルピア、君を愛している」
フェリクス様はそれだけ言うと、私を見つめたまま立ち上がり、大勢の国民が見守る中、私に口付けたのだった。






