表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【10/7完結巻発売】誤解された『身代わりの魔女』は、国王から最初の恋と最後の恋を捧げられる  作者: 十夜
国王は魔女に最初の恋と最後の恋を捧げる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

144/189

【SIDE国王フェリクス】深夜の密談 中

「聖獣様、お久しぶりです」

私は窓から飛び込んできた妃の聖獣に声を掛けた。


ルピアとともにディアブロ王国を訪問するにあたって、聖獣にも声を掛けたのだが、「僕は自分の城に戻っているよ」とにべもなく断られたことを思い出す。

それなのに、こうして訪ねてきたところをみると、何か用事ができたのかもしれない。


突発的な用事というのは大抵悪いことだと身構えたが、聖獣はのんびりした様子で王妃と世間話を始めた。

どうやら用事があると考えたのは私の勘違いで、聖獣はルピアの家族に会いに来ただけらしい。


何事もなければそれに越したことはないと安堵していると、王妃がちらりと私を見た。

「バド、フェリクス王は身代わりの魔女について、独特の考えを持っているみたいよ。魔女にとって身代わりの魔法は、祝福ではないらしいわ」


聖獣が呆れたような表情を浮かべたため、私はルピアの身近にいる聖獣にこそ理解してほしいと、長年抱き続けていた思いを言葉にする。

「聖獣様、私はずっと、『身代わり』の魔法は魔女にとって不公平なものだと考えてきました。相手の身代わりになって救えることは、魔女にとって喜びだというのは、救われる側にとってありがたい話です。しかし、魔女が全ての苦しみと痛みを一人で引き受けるのは、あまりにも不公平な話です」


生まれた時から魔女はそうあるべきだと考えている王妃や聖獣と異なり、16歳で初めて魔女の存在を知った私にとって、ルピアの献身は非常に不公平なものに思われたのだ。


「ルピアは2度も私の身代わりになってくれましたが、その際、私の怪我や毒を一切合切その身に受けました。そのため、彼女は長い間、死ぬほどの苦しみに耐えなければなりませんでした。一方の私は、苦しむことなくぴんぴんしているのです。私は彼女の代わりに、苦しみを引き受けるべきだった」


勢い込んで話をした私だったけれど、そこで急に口ごもる。

 現在のルピアは私への恋心を失くしており、身代わりになることはないため、身代わりになる際の苦しみについて語ることは的外れに思われたからだ。


 しかし、すぐにルピアは愛に溢れた女性だから、いつか必ず大切な相手をもう一度見つけるだろうという気持ちになる。

 そして、その相手が私になる可能性もあるのだから、必死に努力し続けようと考えていると、強張った顔の私を見て何と思ったのか、カーラ王妃が持っていた扇をばさりと開いた。

それから、王妃は扇から目元だけを出して私を見つめる。


「それで、フェリクス王が言いたいのは、もう一度ルピアがあなたの身代わりになった場合、あの子だけに怪我や病気の苦しみを負担させたくないということ?」

 ルピアが再び私の身代わりになる未来は絶対に避けたいが、と思いながら頷くと、カーラ王妃は無言になった。


代わりに、王妃の隣にいた聖獣が不思議そうに首を傾げた。

「なぜだい。魔女が身代わりの代償として苦しみを引き受けるのは当然の話だ。それなのに、フェリクス、君はそもそもそこが問題だと言うのか?」


私の発言を全く理解できていない様子の王妃と聖獣を見て、魔女が全ての苦しみを一人で引き受けることを、誰も問題だと思わないことが問題なのだと初めて気が付く。

恐らく、魔女を知る者たちにとって、魔女が自分の身を犠牲にすることは、疑問にも思わない当然のことなのだろう。


『身代わりの魔女』は長い間ずっと、その方法で身代わりの魔法を行使してきた。

だから、そのやり方について、私が口を差し挟むことはできないが―――このままにしておけば、今後もずっと、ルピアは魔法を行使するたびに一人で苦しまなければならない。


私は両手をぐっと握りしめると、できるだけ感情を抑えようと意識しながら声を出す。

「私は魔女のやり方を批判するつもりはありません。長年かけて編み出した、身代わりの相手を救う方法ですから、今の方法が最善なのでしょう。しかし、ルピアの負担を軽くするために、私も何かしたいのです」


「…………」

奇異な者を見る目で私を見つめてくる王妃の隣で、聖獣がのんびりした声を上げた。

「非常に独創的な考えだね。ただ、できないこともないんじゃないかな」


「えっ!」

驚きの声を上げる私とは対照的に、カーラ王妃は訝し気に片方の眉を上げる。

「そうなの?」

聖獣は尻尾をふわりと振ることで、王妃への返事に代えた。


それから、聖獣は考えるような表情を浮かべる。

「『身代わりの魔女』と言いながら、訓練すれば、魔女は身代わり以外の魔法も使えるようになる。たとえばルピアにとっての虹をかける魔法がそれだ」


聖獣が言いたいことは分からなかったが、その通りなので私は無言で頷いた。

そんな私を見ながら、聖獣は説明を続ける。

「『身代わり』の魔法は全ての魔女が共通で使えるが、それ以外の魔法は魔女が個別の訓練で獲得するものだ。しかし、それら全ての魔法に共通する条件がある。対価となるのは必ず魔女自身ということだ。そのはずだが、……魔女の身以外を対価にする例外が一つだけあるんだ」


「それは何ですか?」

じりじりとした焦燥感を覚えながら尋ねると、聖獣はさらりと爆弾を落とした。


「答えを言う前に、一つの事実を明らかにしてもいいかな。僕はルピアが抱えていた卵から生まれたが、その卵から生まれた聖獣は僕だけじゃないんだ」

いつも読んでくださりありがとうございます!


ただいまコミックス2巻が発売中ですが、3/7(金)ノベル5巻も発売予定です。

どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★Xやっています

☆コミカライズページへはこちらからどうぞ

ノベル6巻(完結)発売中!
ノベル6巻
ルピアの大変な悩みごと、【SIDEフェリクス】そして、最後の恋は永遠になるを加筆し、
書店特典SSの中から、特に読んでいただきたいものを厳選して7本掲載しました。


コミックス3巻発売中!
コミックス3巻
ルピアとフェリクスの甘々な日々、それから身代わりになり、さらに……
のパートがめちゃくちゃドラマティックに描かれています。
ぐぐっと物語に入り込めますので、ぜひ読んでみてください。


どちらも素晴らしい出来栄えになっています!
ぜひ2冊まとめてお楽しみください!! どうぞよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ